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「ごめんね、じゃねぇんだよ。早いとこくたばれ、クソ女。」
「…でも、今日はどうしてここに来てくれたの…??」
時に女の直感は恐ろしい。白摩は一瞬言葉に詰まったが、すぐに切り返す。
「うっせぇな。何でもねぇよ。いいだろ、別に。俺がどこにいようが、何をしようが…。」
言いながら、白摩は彼女と繋いだ手をなかなか離せずにいた。…母親の手は、温かい反面皮膚の下がどこか冷たく硬く感じる。
あの日から、白摩は母親の病室に通うようになった。見舞いではない、佐々が来るかもしれないからだ、と自分に言い聞かせながら毎朝病室の扉を開く。
病室にいて、何をするでもない。白摩は母親の手を握って、黙って外を眺めている。手を握りたいと言いだしたのは母親だ。子供みてぇ、と悪態をつきながら白摩は渋々手を伸ばす。小学校の頃、呼び出しを受けた後に繋いだ手はもっと大きかった。すっぽりと自分の手を包み込んでいた。けれど、今の母親の手はこちらが覆えるほど小さくて所々骨ばって、挙句皮膚はカサカサしている。白摩は触れる度に、ハンドクリームを塗ったくってやらなきゃこっちが気持ち悪い、と思うけれど翌日の朝には忘れてしまっている。明日、やればいいと思う。
病室のベッド付近にあった丸椅子を持ってきて、どっかりと腰を下ろす。…病室には母の着替え以外大したものは置いていない。着替えはどうやら、母親が佐々に連絡を取って持ってきてもらったらしい。自分の母親にとって、佐々は二人目の息子みたいな存在だった。
白摩が病室でするのは、母親の手を握って、窓を眺めるだけだ。窓の外には林が広がっていて時々鳥が木の梢に止まる。息子が暇を持て余しているのを見てとったのか。ある朝、母親が口を開く。
「…春太君、歌を歌って。」
「…え。」
母の手に、心なしか小さな力がこもる。
「お願い。」
寝たきりの女性に乞われて、断れる子供はそういないだろう。白摩は仕方ないな、と愚痴を漏らしつつも、母親の手を握り返す。
「…どんな歌がいい??」
母親の黒い瞳が揺れる。…口の前に手を持ってきて、そうねぇと彼女は呟く。ややあって、母親は明るい曲調の童謡を頼む。
「ほいほい。」
了承して、白摩は息を吸い込む。…ぶっちゃけ、今の白摩は歌なんて口ずさみたくなかった。だって、伴奏してくれる相棒が行方不明だからだ。
でも、病室の仮の主である母親に頼まれれば仕方がない。宿泊代だと思えば、なんてことはなかった。
「~…♪」
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