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上がれ、と大男は少し身を引いて、こっちだと顎で廊下の奥を示す。
大男の背中に従って廊下突き当たりの部屋に入ると、そこは客間になっていた。三方向が戸に囲まれた和室で、荘厳な雰囲気が漂う。入ってきた襖の反対は中庭に面していて、ガラス戸から砂利が敷き詰められ、石畳や石灯籠の見受けられる立派な庭が見えた。
「じいさんなら、そこにいる。」
大男が手で示した先には、仏壇があった。白摩は目を見張り、よろよろと仏壇へと近づいていく。仏壇に置かれた幾つかの写真立ての中から真新しいものを一つ手に取る。にっこりと顔を歪めて笑う、老人の顔に白摩は見覚えがあった。…峯ヶ屋だ。
次の瞬間、白摩は持っていた写真立てを畳に叩きつけ、衝動に任せるまま足で踏みつける。大男の制止も効かず、勢いで仏壇の上を蹴っ飛ばす。鈴と鈴棒が宙を舞い、蝋燭が倒れ、何本もの線香が途中で折れてバラバラになって畳を汚す。木魚はコロコロと畳を転がり、部屋の隅に不時着した。
「おい、おい、やめろって!!」
ほとんど金切り声に近い悲鳴をあげ、大男は白摩を背後から羽交い締めにする。しかし、白摩は四肢を無茶苦茶に動かして抵抗する。
「ふざけんなァァァッ!!」
白摩は口角から唾を飛ばし、仏壇を睨めつける。
「こっちはしこたま悩んで、もうアンタのとこしかないから来てやったんじゃないか!!それが何だよ!!なに健やかにそこで寝てやがんだ!!この耄碌ジジイ!!くたばるんなら、もっと人の役に立ってからくたばりやがれ!!このボケ老人!!」
罵倒できたのは、そこまでだった。大男によって白摩は赤子の如く畳に転がされる。
白摩が起き上がろうともがいている間に、大男は彼を押さえ込もうと馬乗りになる。
「離せ、てめぇっ!!俺はまだあのボケジジイに言いたいことがたくさんある…っ!!」
「死んだ奴に、どこまで当り散らせばお前は気が済むんだ。…ええ??」
大男のよく通る声に怒鳴られ、白摩は動きを止める。大男は、白摩の両肩を包むように手を置いた状態で続ける。
「お前は知らないだろうけどな、半年前の葬儀には人がわんさかやって来てくれたよ。皆、じいさんの遺影の前で涙してくれたんだよ。教師の定年迎えた後も、子供と向き合って生きていた。趣味で開いた将棋教室は、部屋が生徒さんでいっぱいになるほど大好評だった。七十一歳で亡くなった。じいさんは最後まで意識がちゃんとしていた。酔っ払い運転が絡んだ、不幸な交通事故だったよ。」
お前は葬儀にも来なかったよな、大男は淡々と話す。ニュースキャスターの如く、真顔で事実をありのままに告げる。
「さっき言っていたよな、『こっちはしこたま悩んで、もうアンタのとこしかないから来てやった』って。生きているお前が悩んでいて、もう死んじまったじいさん恨むのは生き人の俺としちゃわかるよ。死んでいる奴は確かにいいご身分に見えるよ。仏壇を蹴ろうが、墓を争うが本人死んじゃってんだから俺らにはもう関係ねぇもんな。」
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