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でもよぉ、と大男は初めて白摩の襟元を掴み上げ、緩く上下に揺らす。
「生憎と、『俺』が痛ぇんだわ。死んだじいさんの、生きている身内の俺が堪らなくなるのよ。死者に鞭打つって言葉があんだろ、あるけど現実は違う。死んだ人に魂はねぇかもしれねぇけど、矜持はあるわけよ。他人が、家族すらも入り込めない領域ってもんがあるのよ。」
お前は俺のじいさんを汚した、と大男は眉を顰める。
「…困っているとこ悪いけど、他を当たってくんない??じいさんが幾ら甘やかした生徒だからって、家族である俺が家に立ち入るのは許さない。」
大男はいとも簡単に白摩を俵抱きにして、廊下を渡っていく。精一杯の抵抗をしたが、白摩はぽいと玄関に打ち捨てられてしまう。玄関扉が閉まる寸でで、白摩が声を上げる。
「待てよ、逃げんのかよぉっ!!」
やっとの思いで漕ぎ着けた場所で見捨てられた。っていうか大男が怖い、めっちゃ軽々背負われた等の衝撃で、白摩は生理的な涙で目が潤み出す。
玄関扉の隙間五センチほど残して、大男はこちらを一瞥する。
「…というより、現実から逃げているのは君でしょう??」
言い終えるなり、玄関扉はぱたんと閉め切られた。白摩はぽかんと口を開け、へたりこんだ格好で深く俯く。
『お前だって、逃げてばっかりじゃないか!!』
『…というより、現実から逃げているのは君でしょう??』
皆が言う。白摩は逃げているそうだ。
だが、白摩自身はわからない。自分は、一体何から逃げているというのだろう。何から目をそらしているというのだろう。
人は努力をすれば変わる、と何かの本で読んだ。ゲームでも目にした記憶がある。だけれど、あれは元々現実じゃない世界で通用する法則だ。頑張ったって、昔傷ついて歪んだ視界を持つ人間はどうやったって真っ直ぐ進んでいけなどしない。
考えている内に、嗚咽が漏れてくる。自分は犯罪など一切していない。なのに、どうして人から疎んじられて生きていかなければならないのか。不条理だ。こんな世界、なくなれ。
或いは、と考えて、白摩は自分がスーツに着用していたネクタイの結び目を解く。紐状のネクタイを眺め、ふっと瞳を眇める。
(こんな世界、こっちから願い下げだ。)
時刻は七時過ぎだろうか。住宅街からは、夕飯時特有のいい匂いがあちらこちらからした。出て行ってやる、とネクタイ片手に峯ヶ屋の家の近所を彷徨く。ちょうどいい市民公園がある。人気がない。手元にはネクタイ。白摩はフラフラと公園の奥に進んでいく。
公園は緑豊かで、コンクリートでしっかりと舗装された道が林を縫うように広がっている。まるで、ちょっとした迷路のようだ。時刻の関係か。人気は全くない。静寂が漂い、ただただ冷たい空気が流れている。林には、しっかりとした木の幹がいっぱいある、死ぬにはうってつけの公園だった。目をつけた木へと近寄って、梢にネクタイを結ぶ。
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