アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
27
-
ネクタイは長さが厳しかったが、何とか首吊り用の輪が出来た。
白摩は辺りを見渡して、そこらへんに打ち捨てられたセメントブロック数個を見つける。組み立てれば、急ごしらえの足場にはなるだろう。
用意を済ませ、白摩は積み重ねたセメントブロックを足場に首吊り用の輪に顔を突っ込む。次は、小さく跳躍するだけで死ねる。生きていく辛さなんて知らなくて済む。母親と峯ヶ屋が待っている。
飛ぼう、と考え、目を閉じると生きているだろう幼馴染の声が聞こえてくる。
『…歌ってくれよ。』
死んだら、二度と歌えない。幼馴染との再会も叶わない。
『…お前には、わかんねぇよ。』
『…それが、私にもわからないの。あの子、家出しちゃったのよ。困ったわね。就職先も決まっていないんだから、所持金だってたかが知れているのに…。』
あの時の言葉を、謝罪できない。
頭を左右に振って、思考を隅に追い出そうとする。すると、違う方向から声がしてくる。
『ママはね、あなたのことが大好きよ。いつだって、愛していた。』
母親は死んだ。病にじりじりと身体を冒されて、苦しんだ。息子に嫌われたまま、愛していると言ってもらえないまま。
『お前は知らないだろうけどな、半年前の葬儀には人がわんさかやって来てくれたよ。皆、じいさんの遺影の前で涙してくれたんだよ。教師の定年迎えた後も、子供と向き合って生きていた。趣味で開いた将棋教室は、部屋が生徒さんでいっぱいになるほど大好評だった。七十一歳で亡くなった。じいさんは最後まで意識がちゃんとしていた。酔っ払い運転が絡んだ、不幸な交通事故だったよ。』
峯ヶ屋は死んだ。きっと数え切れないほどの人に慕われ、愛されていたのに唐突に命を奪われた。
最後に、幼馴染の声がした。
『…ハルは、許せる人だと思うから。』
「うわあああッ!!」
声の限りに叫んで、白摩は背中から地面に落ちた。鈍い音がして、重い痛みが背中に走る。地面はひんやりと湿っていて、おまけにがっちりと硬くて居心地が悪い。白摩は笑う。全てがどうでもよくなって、腹の底から笑い飛ばす。
「いってぇ~っ!!…痛い、痛過ぎる、死ぬ。俺、生きてんのに死んじまうほど辛ぇぇぇっ!!」
ゲラゲラ笑って、頬を伝い落ちる涙を放ったらかして、夜空を見上げる。満天の空。星が輝いている。空気は冷たく、現実に存在するどれ一つとして白摩を助けてはくれない。
(現実は不条理ばっかで、苦しんでいるのは俺だけじゃないってわかった。)
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
27 / 68