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(俺、マジ屑なのに何でまだ生きているの??)
(…許せるって、何をだよ、ハル。この世界丸ごと、許せっていうのかよ。…ハル。)
自分はそんな、出来た人間じゃないのに…、背中の痛みだけが闇の中にいる白摩に生きている事実を思い知らしめていた。
公園の地面に寝転がって、ネジが外れたように笑っていると、不意にお腹がグッギュルーと鳴り出す。白摩は空腹だった。絶望していようが、人間の身体は正しいサイクルを繰り返す。
公園付近の大きな道路に出て、タクシーを捕まえる。横目でちらりと運転手の手元を眺めると、時刻は午後八時半前を示していた。帰りの車窓では、輝くネオンサインと行き交う人影がどうにか見えるくらい日はとっぷりと暮れていた。
『…じいさんは最後まで意識がちゃんとしていた。酔っ払い運転が絡んだ、不幸な交通事故だったよ。』
自分の問題で手一杯だった。が、白摩は落ち着きを取り戻すと、酷く動揺している自分に気が付く。
(峯ヶ屋先生、亡くなっていたのか…。)
移ろいゆく景色を映す車窓に、己の額をくっつけて、白摩はそろりと目を閉じる。
『春太君は、優しい子だよ。』
頭を撫でてくれたあの逞しい手は、もうこの世のどこにもいないのだと考えると、目の隅にじんわりと涙が浮く。
死者だとわかっていても、会いたいと衝動がこみ上げてくる。この感情は何だろう、と白摩は瞬きを繰り返す。
『ママはね、あなたのことが大好きよ。いつだって、愛していた。』
母親にだって会いたい。会って、言えなかった気持ちをぶつけたい。
自分に言いたい台詞があるように、母親にだって峯ヶ屋にだって告げたい気持ちがあったはずだ。
しかし、彼らに発言権はない。死人に口なしとは、なんと罪深い台詞だろう。
残された生者が話しかけられるのは、仏壇くらいだ。けれども、頭に血がのぼってしまった白摩は、峯ヶ屋の仏壇を無茶苦茶にしてしまった。
『死んだ人に魂はねぇかもしれねぇけど、矜持はあるわけよ。他人が、家族すらも入り込めない領域ってもんがあるのよ。』
まだだ、と白摩は両手を拳にする。孫の大男は生きている。話が通じる。ならば、白摩は誠心誠意、体当たりしていくしかない。大男が拒むなら、仏壇の峯ヶ屋とは二度と喋れない。
考えながら、代金を支払い、家の前でタクシーから下りる。持っているのも忘れていた携帯で時刻を確認してみる。午後十時。…通りで、腹がすくわけだ。玄関扉に手をかけると、聞き馴染んだ声に呼び止められる。
「あ~ら、待って待って。春太君、待って。」
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