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ドラムがバチで合図を送り、やがてオリジナルの曲が始まる。全身でリズムに乗っていた幼馴染は、マイクを口元に持っていく。息を吸う。歌いだす。
「さ…さっきも佐々のお母さんと見たけど、死ぬほどは…恥ずいな、これ。」
バンドのギターはそっぽを向く。
「この頃の楠田さんも、かわいいですよね。」
後輩はあっさりと惚気る。
「バッカ。…白摩さんの前では、その手のネタは控えてさしあげろ。ねぇ、白摩さ…っ!?」
楠田が皆まで言えなかったのは、視界の先にいた白摩がぼろぼろと大粒の涙を零していたからだ。
「し…、白摩さん??」
「ふぇ~…。」
白摩はずずっと鼻をすすって、無理矢理笑顔を作ってみせる。
「ミチは、やっぱり凄いな。」
幼馴染のカリスマ性を心の底から感じていた。
「こんなに大勢の客の前で、少しも動じない。」
何千回と歌を口ずさんできた白摩にはわかる。歌声は正直だ。少しの筋肉の強張りが、発声の裏返りに通じる。度胸がないと、やれない芸当だ。
「…元気が出る曲だね。」
一通り見終わると、白摩の唇から感想が漏れる。アップテンポな曲調。力強い歌声。まるで、虹色を想起させる音楽。一人では完成し得ない、バンド全員が一体となっている音色。
「聞いていると、笑顔になれる。」
「…だが、今のアンタは泣いている。」
後輩の指摘に、白摩は確かに、と吹き出す。
「久々に笑える、と思ったんだ。思えたら、何か泣くほど感動していた。」
ああやっぱりミチは凄いなぁ、と白摩は呟く。
「俺が生きていくには、ミチがいないとダメだ。」
「…ふざけたことウダウダ言わないでくれませんかね。」
「ちょ…っ、榎野!!」
後輩の冷めた声に、楠田がサァッと青褪める。
「アンタの人生は、アンタのもんだろ。佐々先輩はモノじゃない、人だ。佐々先輩にこれ以上、重たいもん背負わせようとしないで下さい。」
白摩は頭をぶん殴られたような衝撃を感じた。更に、後輩は続ける。
「生きてはいけないって、アンタは今ここで息をしているだろ。生きている以外の、なにものでもない。」
アンタは一人で生きていける、榎野は年上相手に臆さずに言ってのける。
「生きる理由に、人を使おうとするな。」
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