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ったく、と呟く恋人の手を取って、榎野は歩く速度をあげる。
「あっ、おい。」
「…いいでしょう、手くらい。暗いし、ここら辺街灯少ないですよ。」
「…ん。」
大人しく甘えてくる楠田に、年下の男は小さく微笑む。
「白摩さんのお母さん、亡くなったばかりって佐々のおばさんが言っていただろう。んで、肝心の佐々も家出しちまって…。」
俯きがちの楠田は続ける。
「それって、白摩さんからしたら今まで自分を守ってくれていた壁が一気になくなったようなもんじゃん。あと、あの人…。」
言いにくそうに口を噤む恋人の後を、榎野は引き取る。
「手首に、何本も切り傷があったね。」
「きっと、自傷癖があるんだと思う。母親の後を追わなきゃいいけどさ…。」
榎野は不安げな恋人の手をキュッと強く握り、上下に大きく揺さぶってみせる。
「死にはしないって。」
「え…。なんでわかるの。」
不可思議そうな楠田に、後輩は柔らかく笑ったまま答える。
「そんなの、好きな人がいるからに決まっている。まだこの世で好きな人が生きているのに、一人だけ死ぬはずがない。」
「そうかなぁ…。」
呟いて天を仰いだ楠田は、ハッと閃いて、恋人に告げる。
「俺は、佐々の方がわっかんねぇ~よ。同性の、しかも幼馴染に手ェ出すって…。」
しかも、本人は行為の意味よくわかってねぇ~し…、と楠田は呟く。
「あれは、ある意味で佐々先輩の安全制御だったんじゃないかな。」
榎野が語りだす。
「白摩さん、最初は先輩を殴りかかりにきたじゃないか。あのテンションで女の子の相手をしたら、最悪、警察沙汰だろうから。佐々先輩は子供の時に勘づいてセクシャルな面を世話し続けたんじゃないかな。」
けどなぁ、と隣を進む楠田がぼやく。
「おかげで、佐々本人は彼女がいないんだぞ。あのしっかりした佐々が…言っちゃ悪いけど部屋から思うにだらしない白摩さんのどこをそんなに惚れたっていうんだ??」
「さぁ…。」
榎野は首を捻って、ややあってから顔を元に戻す。
「とにかく、今日のところは早く帰ろうよ。お腹がすいた。」
「うん??ああ…。俺はこのまま外食でもいいけど??」
やった、どこに行こうか。目をキラキラさせて榎野が言う。そうだなぁ、と楠田が笑って返す。
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