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二人の姿は段々と遠ざかり…やがて見えなくなってしまった。
翌日。午後五時を回った頃。大男…峯ヶ屋の孫は、垣根のある一軒家に足を踏み入れる。今日は、空色のセーターに黒いジーパンという出で立ちだ。慣れた手つきでズボンのポケットから鍵を取り出し、開錠を試みる。直後。
「…よぉ。」
「・ ・ ・ッ!!?」
真横から声をかけられ、魂が口から出てきそうなほど吃驚する。見ると、昨日やって来た珍客が不良のよくやる、『お尻をつけない座り方』をしている。大男は正式名称に興味がない。
「ってめぇ、出禁だっつったろ…。」
掴みかかろうと近寄る大男に、白摩は黙って白い紙袋を渡す。…巷で有名なデパートのロゴが入っている袋を大男はほとんど反射で受け取った。中を覗くと、箱がある。見覚えのある箱に、大男は無言で取り出す。
箱は、ウィスキー・ボンボンが有名なメーカーのものだった。大男は静かに、これは…と双眸を見張る。大男の反応を見た白摩は、恥ずかしそうに後頭部に手をやる。
「昨日、さ…友達の友達が来たんだ。」
大男には、話の終着点が見えてこなかった。それでも、辛抱強く耳を傾けてやる。
「んで、色々言われて初めて気がついたんだ。俺には、守ってくれる人が大勢いて、温情に甘えていたんじゃないかって。感謝の気持ちを、返せてなかったんじゃないかなって。」
だから、と顔を上げ、白摩は立ち上がる。凛々しい表情に、大男は口元をフッと緩める。
「…だから、恩返しがしたい。死んじまった、おふくろにも峯ヶ屋先生にも!!おふくろには、死ぬ前に『さよなら』も言えなかった。恩師にはせめて、仏壇で手を合わしてやりたい。伝えたかった『さよなら』を、きっちり吐き出したい。じゃないと、俺…。」
白摩は俯いて、か細い声をだす。だらんと垂れた手は、いつしか拳になっている。
「…こっから、前に進めない。生きている自分とも向き合えない。」
覚悟の決まった目で大男を見据え、白摩は九十度のお辞儀をする。
「ごめんなさい。…あなたのおじいさんを、峯ヶ屋先生に無礼な態度をとったこと、謝ります。もう二度としません。どうか、お願いします。俺にもう一度だけ、峯ヶ屋先生と向き合う機会を下さい。」
大男は、手元の紙袋に目をやり、これは、と白摩に問いかける。
「…あなたに、死んだ人に矜持があるって言われて、考えたんです。先生の矜持って何だろうって。」
白摩は一端言葉を切ると、無造作にわしわしと自らの髪を掻き毟る。
「…けど、俺、馬鹿だからわかりませんでした。んで、峯ヶ屋先生の思い出を呼び起こしていたら、気づいたんです。俺、先生のこと言うほどあんまり知らなかった。」
訥々と、白摩は語る。昨日と同一人物とは思えない、肝が据わっている。
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