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「…そういや、初めて俺の歌に伴奏をつけてくれたのは峯ヶ屋先生だったっけ。」
白摩は、そっと瞳を伏せる。今はどこにいるかわからない幼馴染ではなかった。
「~…♪」
白摩は遺影を見つめながら、小さく歌う。あの時の校歌。出だしがわかればスルスル出てくる。六年間の思い出は、決していいものばかりではない。あの時、呼び出しの帰りに繋いだ母の手ももうどこにもないけれど、歌はこんなにくっきりと白摩の中で息づいている。
「…お前、それ。」
白摩の歌を聞いて、司は急いで奥に引っ込んでしまった。自分の校歌があまりにも下手くそだったから吐き気でも催したのか。白摩が危惧していると、司は今時珍しい古びたカセットテープとテープレコーダーを持ってきた。
「こ、これ!!じいさんがこん中で歌っている曲の一つだ。」
司は震える手でカセットテープをセットし、再生ボタンを押す。曲が流れ出す。力強くも繊細なピアノの演奏。白摩は大きく瞳を見開く。間違いない、少し嗄れているが峯ヶ屋先生の声だ。
テープには峯ヶ屋が歌う校歌が幾つも入っていた。いつ録音したものかはわからない。司に訊くと、定年後のものではないかと推測されているらしい。
「…何曲もの校歌が入っているんだ。時々ピアノを間違えては戻っているから、きっと空で歌っている。よっぽど、自分が務めた学校に愛着があったんだな。」
「峯ヶ屋先生…。」
白摩が手を拳にしたところで、峯ヶ屋のピアノが懐かしいメロディーを奏で出す。白摩は思わず、正座をした姿で前のめりになる。
「…この曲!!」
「ああ。」
司が頷くとほぼ同時に、峯ヶ屋が歌いだす。忘れもしない、さっき白摩が口ずさんだばかりの校歌。
『~…♪』
いてもたってもいられなくなって、白摩は僅かに開いた口から息を吸う。
「~…♪」
カセットテープに録音された峯ヶ屋と歌う。死者と共に同じ曲を歌う。脳裏には、いつしかピアノを伴奏してくれた温和な峯ヶ屋の姿が鮮明に浮かび上がる。
『…みんな、春太君はちょっと乱暴なところがあるかもしれない。これは、春太君が気をつけなきゃいけない部分だね。でも、春太君は乱暴なだけじゃないよ。』
『春太君は、痛みがわかる優しい子だよ。』
『春太君は、これからも優しくあってね。どんなに難しいことがあっても、君自身が優しければなんてことはないさ。』
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