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白摩は、以降司の家に足繁く通うようになった。
就職先がなく、自身にアルバイト歴がない点からなかなか仕事探しに躊躇いを感じていると司に話したら、彼が自営業でやっている飲食店で雇ってもらえることになった。
もちろん、バイトの身で、働くのに慣れたら就職活動をするのが条件だ。
バイトのシフトが入っているだけで、日常はガラリと変わる。カレンダーが捲れ、五月上旬に入っていた。ゴールデンウィークが終わり、客足も落ち着いてきた、直後だ。
白摩の家に、一通の葉書が届いた。送り主は、『ミチ』。…葉書の裏にはとある老人ホームの写真が載っている。写真の隅っこには、白字で住所と連絡先が書かれている。隣県にある老人ホームから届いた突然の知らせに、慌てふためいた白摩は、とりあえず司の家に行って彼に相談を持ちかける。
「…ろ、老人ホームの葉書だァ??」
司が店を閉めて、家に帰ってきた夕方。仏壇のある間で、二人は向かい合って胡座をかいていた。…中間の畳に置かれているのが、例の葉書である。
「…何だ。その、イタズラっつう線は。」
「可能性はある。けど…ミチって呼んでいるのは俺だけ。俺ン家の住所は的確だ。」
ミチって可能性がでけぇと呟く白摩に、低く唸って、司は身体を左右に揺らす。
「…んじゃ、その…。行方不明の幼馴染とやらが老人ホームに勤めているって線は…。」
「…あんま詳しくないからわかんないけど。こういうところでの仕事って、ほとんどは資格がいるんじゃないのか??ミチは俺が覚えている限りじゃ、そういう資格をとってはいなかったと思う。」
降参したらしい。司は、黙って天井を仰ぐ。
「…で、電話してみるか。お前の幼馴染がいるかどうか聞いて…。」
「司さん。俺、とにかくここに行ってみようと思っている。」
瞬時に司の顔が動き、白摩を凝視する。
「…お前、それ本気で言っちゃっている??」
はい、と頷く白摩の瞳の奥には、静かに燃え盛る炎の意志を宿していた。
「俺は、ミチと離れてちゃ生きていけない。」
司は数秒白摩の表情を見据え、やがて小さく肩を落とす。
「…わぁ~ったよ。けど。」
迷ったらすぐウチに来い、司は白摩の頭に手を伸ばし、グルグル掻き混ぜて、気さくに笑う。
「てめぇはもう、一人じゃねぇんだ。」
白摩はくしゃりと顔を綻ばせ、一つ大きく頷いた…。
老人ホームへは、一応見学をしたいと連絡をいれた。仕事は司の温情で休みにしてもらい、隣県に向かう。老人ホームは山奥にあるので、電車を降りてからはひたすらバスの乗り継ぎが続く。一台、二台…ちょうど三台目を降りたところで徒歩に移動手段が変わる。
閑静な住宅街育ちの白摩としては、軽く目を見張るほど緑が視界の大半を占めている場所だった。心なしか、空気が澄み切って感じる。佐々は、どうしてここにたどり着いたのだろうと考える。白摩は、幼馴染の影に焦がれている自身に気が付く。
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