アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
41
-
一刻も早く、佐々に会いたい。
白摩が急くのはきっと、榎野の言葉が心をちくちくと刺してくるからだ。
『佐々先輩を利用している。』
『…佐々先輩とは、会うべきではないと思います。』
『依存している証なんじゃないですか。』
白摩は彼の台詞に耐え切れず、あの時叫んだ。
『ミ…ッ、ミチの気持ちがお前にわかるのか!?俺は会って確かめる!!』
「ミチ…。」
ずっと優秀だった幼馴染。白摩の誇りだった男。
『…それが、私にもわからないの。あの子、家出しちゃったのよ。困ったわね。就職先も決まっていないんだから、所持金だってたかが知れているのに…。』
『今回、初めて就職活動で挫折を味わっちゃってね…。毎日毎日、どこかの企業に出かけていたわ。落選の通知が届くたび、何でだって自分を責めていた。』
『あの子ったらバンドメンバーに暴力を振るっていたそうよ。』
完璧なんかじゃ、なかった。
『おい、ハル!!聞こえているか、ハル!!命は天からの授かりものなんだぞ!!ハル!!』
白摩が死にかけると、幼馴染が来て、涙を流してくれた。命を尊ぶ意味がやっとわかった。
『…ハルは、許せる人だと思うから。』
白摩が人生に疲れ、膝を折ると必ず幼馴染がやって来て、励ましてくれた。…今度は、自分が佐々を助ける番だ。
「待っていてな、ミチ。」
舗装されたばかりと思わしき、凸凹のアスファルトを踏みしめながら、白摩は前方を見つめる…。
老人ホームは、写真で見て想像していたよりずっと大きくて広かった。ネットで地図でも調べておけばよかったと後悔しながら、建物の壁をぐるりと一周して、正門らしい場所に入っていく。
ガラス戸の向こうに下駄箱と受付があったので、靴を脱いで並べられていたスリッパを履く。受付、と小さく書かれている部屋に声をかけると、たちまち扉が開いて薄ピンクのエプロンをした小柄な女性が出てくる。三十代前後だろうか。ポニーテールをしている。
「こんにちは。」
接客業をしていても、女性と話すのは未だなれない。目線が定まらないまま、口を開く。
「…こっ、こんにちは。あの、俺、じゃなくて、私…。今日の見学に来た白摩といいます。」
「シロマ…。ああ、白摩さんですね。こちらです。」
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
41 / 68