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案内しようと前方を手で示した女性だったが、二人が歩き出す前に再び受付の扉が開く。
「白摩さん!?あの、白摩さんって仰る??」
出てきたのは、大柄でややぽっちゃり体型の女性だった。四十代手前か。こちらは、茶髪のショートだ。
「え。あっ、はい。俺の名前は確かに白摩ですけど。」
なんだなんだ、と白摩が身構えていると、大柄な女性職員は白摩の腕をとる。
「もっ、もしかしなくても白摩春代さんの息子さん!?」
亡くなった母親の名前が飛び出してくると、さすがの白摩も面食らう。
「は、はぁ…。確かに白摩春代は母の名ですけど…。」
「息子さんを遣いにくれたのね!!」
目を白黒させている白摩を横目に、女性職員は白摩を強く引っ張っていく。されるがままにたどり着いたのは、天井から床まで白一色の部屋だった。唯一、入って右手の壁半分がガラス張りになっている。ガラスの向こうは透けていて、隣室の様子がわかるようになっている。
「…随分とお変りになっているだろうけど、覚悟して見てね。」
女性職員から注意を受けるも、白摩には何のことだかさっぱりだ。とりあえず、勧められるままにガラス向こうの部屋を覗いてみる。
そこは、木目の床と天井、温かな肌色の壁をした部屋だった。部屋の奥、中央に大きなベッドが一つ。ベッドには、ちんまりとした老人が横たわっている。すると、そこに男性職員がやって来て、老人に話しかける。男性職員がベッドの傍らを何やらごそごそしていると、スイッチを押したのか。ベッドの半分が持ち上がり、老人の上半身がゆっくりと起き上がる。そこでようやく、白摩は老人の顔と対面する。思い出すのに、少し時間がかかった。あっ、という顔をしたのに気がついたのだろう。女性職員が白摩に声をかける。
「…わかりますか??あなたのお父様ですよ。」
「…。」
白摩は声を失う。小さい頃、母親と緊迫した空気を漂わせていた父親の面影はあまり残っていなかった。唯一、自分に似た目元だけが彼と白摩の血の関係を匂わせている。
肌には幾重ものシワと、シミが広がっている。肌は浅黒いが、健康的に焦げているとはまた違った感覚がする。すっかり白くなってしまった髪は、少し頭から生えているといった具合だ。母と父の年の差は五以上あると聞いてはいた。が、亡くなった母親と雲泥の差がある。
衝撃を受けているだろう白摩を気にしてか。女性職員は彼の両肩にそっと手を添え、そっと告げる。
「…末期の癌と、重度の認知症を患っています。」
「!!」
思わず顔を上げた白摩と、女性職員の慈悲深い視線が交差する。
「…お会いになりますか。」
一度に言われて、白摩は混乱していた。とにかく、詳しい事情を聞こうと女性職員に向き直る。
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