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「…言っておくけど、父親は重度の認知症だと言われたんだろう。息子であるお前だって、覚えているかどうかわからない。」
「おふくろをッ!!」
玄関先で、白摩は怒鳴る。服の裾をぎゅっと握って、腹から声を出す。
「司さん…。俺、俺な…。おふくろを看取る時、最期まで『愛している』や『さようなら』が一切言えなかったんだ。もう…もう言えないでお別れするのは嫌なんだ。例え親失格の父親だって、俺の…大切な家族なんだよ。」
たどたどしくだが、しっかりと自分の意志を告げる白摩に、父親の最期を看取る決意があるなら、と司は瞳を細める。
「…半端な覚悟じゃ必ず駄目になる。」
「はい。」
白摩はすんなりと頷く。司は問いを投げかける。
「いつ最期がくるか、わからないんだぞ。父親を看取るまで…幼馴染は探しにいけない。」
白摩は下唇を前歯でぎゅっと噛む。記憶の中の佐々が笑う。ごめんな、もうちょっと待って。佐々に語りかけてから、司に向かって答える。
「…はい。」
「父親はお前を覚えていないかもしれない。息子の別人として、父親を看取る覚悟はあるか。年配の人は少し転んだだけでも、骨折する。脆い存在だ。感情に任せて、殴ってみろ。下手すりゃ死ぬ。…それでも、冷静さを保ってずっと傍にいられるか。」
「はい。」
白摩はいつしか、泣いていた。無音で涙を流しながら、それでも司と向き合っていた。
「よし、行ってこい。」
司は白摩の背中を思いっきり叩いてから、懲りたら遠慮なく戻って来い、と笑ってくれた。
決意したのはいいものの、白摩はその夜、ベッドの布団に四肢を巻きつけて眠れない時を過ごしていた。
『…半端な覚悟じゃ必ず駄目になる。』
司に言われて初めて、ことの重大さを再認識した。父親は病気を患っている。今までのように、感情を剥き出しにして白摩が暴れれば、最悪な状況に陥るかもしれない。
『いつ最期がくるか、わからないんだぞ。父親を看取るまで…幼馴染は探しにいけない。』
生死のわからない幼馴染より、死を目前にした父親を選んでしまった。もしかしたら、選び取るのを間違えたかもしれない。
『まだ小学生にもなっていないお前と妻を置いてどこかに逃げた男だぞ。』
父親は、白摩の親としての責任を果たさなかった面は確かにある。小さい白摩が、公園のブランコを一人で漕ぎながら、親子連れが前を通るたびに目で追うのを何度繰り返したか。
家庭を背負いきれなかった父親のセイで、白摩の家は…親子は機能しないも同然だった。全て、父親が招いた責任である。父親に看取る者がいなかろうと、白摩に何かする恩義はない。
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