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それでも、白摩の腹の底から突き動かされる衝動がある。自殺を起こす度、死の淵から目覚める時。白摩は幼馴染の腕に抱かれていた。死ぬな、と怒鳴られた。
誰かが傍にいるだけで、あれほど温かな気持ちになれたのだ。同じように死の淵に佇んでいる父親だって、酷く寂しいに違いない。自業自得と笑い飛ばされても、本能に準じた感情は消えないだろう。
白摩の本心としては、父親の傍にいたい。父親が身罷る瞬間、共にいて柔らかく声をかけて少しでも恐怖を和らげてあげたい。
だが、一方で白摩は自分の心を守りたい気持ちがあった。狡い、と言われても仕方ないかもしれない。
相手はとても脆い存在だ。肘が少し当たっただけで、あっけなく壊れてしまう。自分は、うまく感情を制御できるだろうか。
不安で堪らなくなって、視界が曇っていく。涙目になった白摩は、薄暗い室内の中、手探りでイヤフォンを探り当てる。両耳に装着して、音楽を流す。
音の洪水に身を任せれば、何も考えられなくなる。…いつしか、白摩は健やかな眠りについていた。
夢を見ていた。小さい白摩と今はいない幼馴染が、音楽室で言い合いをしている夢。何気ない、昔の思い出の一片。学ランに身を包んでいるから、中学生の頃だ。幼馴染は高校では別になったし、白摩の高校はブレザーを着用していた。
『ミチがいけないんだ。…俺を合唱のパートリーダーなんかにするから。テノールは難しいし、俺はみんなを上手く纏められない。他の人にやってもらえよ。』
自分の無愛想な声に、白摩は唐突に思い出す。テノールのパートリーダー。忘れもしない、中学二年の時。クラスの合唱コンクール。同じクラスの委員長をしていた佐々に指名されて、自分は任されてしまった。
中学二年生となると、思春期真っ只中。低い声のが格好いいと人気の中、高温のテノールに分けられたメンツは最初っからやる気がなかった。協力性皆無で、不平不満だけがダラダラと流れていく。当時から学校を休みがちだった白摩は、初日の昼休みから半泣きになって幼馴染に泣きついた。
『どうして??ハルの歌声は澄み切っていて、とっても綺麗だ。テノールを纏めるリーダーに相応しいのに。』
幼馴染は片眉を潜め、唇を尖らせている。…自分の采配に間違いはないと踏んでいるらしい。
『…俺じゃ、駄目だよ。』
『駄目じゃない、お前なら出来る。』
根拠なの無いゴリ押しをされて、白摩は逆ギレした。ふぅん、そこまで俺を信頼してんのかよ。その気もないのに、本気で歌の合唱に取り組んだ。合唱メンバーの一人一人と向き合い、愚痴を聞いていく。改善策や妥協案を出す。時に、お金や人脈で説得させていく。それまでダントツドべだった練習の出席率はぐんぐん上昇した。指揮棒を振るう佐々の顔が、日々喜びに溢れていく。やや離れて彼らを眺める担任教師は、誇らしげな微笑を口元に浮かべていた。
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