アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
47
-
合唱コンクール当日。不安過ぎてベッドに引きこもろうとした白摩は、ズルを看破されていた幼馴染に引きづられるように登校した。舞台袖にやって来て、いざ次の順番となると白摩の緊張感はマックスに跳ね上がる。急に腹痛が襲いかかってくる。顔色の悪い白摩を心配して、周囲の生徒が声をかけだす。大丈夫だから、と必死で言い募っていたらとうとう顔を合わせたくないクラス委員長に引き止められてしまう。
『保健室に行こう。』
舞台袖のカーテン裏。みんなに見えないところで迷わず手を伸ばしてくる佐々の手を振り切って、自分は緩く顔を左右に振る。
『…どうせ、また仮病だって思ってんだろ。』
『思っていないよ。』
下腹部をおさえる白摩の腕に、幼馴染は手を重ねる。
『ハルは、これまで一生懸命頑張ったから、本番でコケたらどうしようって思っているんだよ。』
『…格好悪い。』
ぐずり、と白摩が鼻を鳴らすと幼馴染はにこりと微笑した。
『なんで格好悪いと思うの??全力でやろうとしているから、緊張で震えるんだよ。ハルが目前の物事に頑張ろうとしている姿勢の表れじゃないか。』
いつも燻っているハルより百倍いい、と幼馴染は言って、白摩を抱き寄せる。
『み…、ミチ…??』
これはおまじない、と言って小さい佐々はテノールリーダーの額に自らの唇を軽く押し当てる。
『僕がいるから、絶対に大丈夫。』
『そ、それでも俺、グズだし…。コケちゃったら…。』
『僕が、ハルと一緒にコケてやるよ。』
昔から、佐々にだけは嘘がつけない。同じ要領で、どんなに悲しくて堪らない時も佐々が笑うと苦しみは薄れた。
今は、佐々が傍にいない。けれども、自分の中の寂しさに溺れそうになると、小さい佐々が現れる。記憶に住み着いた幼い佐々が、大きな自分を助けようと手を差し出してくれる。
怖くないわけがない。死に逝く父を看取る瞬間。死んだ母親の影を見てしまう可能性。…佐々がいない世界。だけれど、一人ではない。世界のどこかで佐々が息をしている。迷えば、司が話を聞いてくれる。
朝になり、白摩が瞳を開けた時…彼の内に居着いていた恐怖は、すっかり影を潜めていた…。
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
47 / 68