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(先生、俺、なれるかなぁ。)
歌い終えた白摩は、目をうっすら開いて、隣を確認してみる。当然、隣には誰もいない。
「今度こそ、俺、優しい人になりたい。」
…それでも白摩は、ベッドの隣に話しかける。
老人ホームと寝るだけのホテルを行き来する、白摩の生活が始まった。
数日経過すると、白摩の父親は、新任のカウンセラーを覚えた。かうんせらの先生、と呼んでは、名前は小林ですと息子に訂正される日々を送っている。
朝から夕方、面接時間が終わるまで白摩は分単位で父親と一緒にいる。母親にしたのと同じように、白摩は父親の手を握って子守唄代わりに歌を口ずさむ。…一度経験したのだから、と考えていたがすんなりとはいかなかった。父親のリクエストが、白摩の知らない昔の歌ばかりなのだ。一端、廊下に駆け込んで、動画で曲を聴くのもしばしばだった。
初めて気がついたが、母親は息子の知っている曲目を把握していた上でリクエストしてくれていたらしい。最期まで、細かい気遣いをする女性だった。目に焼き付けられつつある父親の寝顔を眺めながら、白摩はこっそりと胸の内で亡き母親に感謝の言葉を送った。
父親が好きな歌手や曲目をある程度覚えてきた、ある日だった。よく晴れた昼時。父親の部屋に老人ホームの食事が配られ始める。俺もどこかで食べようか、と白摩が腰をあげかけた、頃合である。配膳を持ってきた男性職員が、白摩を呼び止める。
「あの…お食事、白摩さんとご一緒にどうですか??」
この場合、職員が呼ぶ白摩さんとは父親である。白摩(息子)がキョトンとしていると、職員は理由を話し出す。
「…実は、うちの職員のミスで一膳多く作っちゃって…。」
足繁く面会に来てくれ、また時折職員の手助けをしてくれる白摩に振る舞いたいという。
「でも、いいんですか。俺で…。」
「あっ、もちろん!!」
平等性があるので、昼食を一緒にしたのはコレで…と職員は人差し指を唇に持っていく。
白摩は、半笑いを浮かべて了承した。食事を運び終えると、職員は父親の部屋を後にする。
ホテルのルームサービスではない、コンビニ飯ではない料理を口にするのは久々だった。
老人ホームの昼食は、一見すると給食のようだった。やはり年齢が高いためか。量は少なめで、成人男性には少し物足りない。
「かうんせらの先生、食べてみてくれ。ここの料理は美味いんよ。」
父親に促され、白摩はメインと思われる肉じゃがに箸を伸ばす。口に入れると、ほろほろとしたじゃがいもの食感と絶妙なあまじょっぱい味が広がる。
「…不味い。」
白摩は口を歪め、微苦笑を浮かべる。父親はへっ??と素っ頓狂な声を上げた。白摩はそんな父親にぽつりぽつりと話し出す。
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