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「…うん、本当はね、白摩さん。ここの食事、とっても美味しいですよ。俺、近頃は手料理に縁がなかったから。温かいだけじゃなくって、人の真心が込められた味で…美味しいです。」
けどね、と白摩は続ける。
「なんかね…。亡くなったおふくろの肉じゃが、思い出しちゃって。俺ね、茶色い料理、苦手でね。肉じゃがとか煮物が嫌いでした。おふくろが出すと、『豚の餌』とか呼んでひっくり返して台無しにしていました。」
すん、と鼻を鳴らして白摩は口を動かす。
「不思議ですよね。おふくろが亡くなって、他の人が作った肉じゃが食べると違うなって思うんですよ。あれほど嫌がっていたおふくろの肉じゃがを逆に探すようになってしまって。」
自炊をしてみたが、不味いばかりだった。佐々のおばさんの差し入れは平らげたけれど、やはり違和感が残った。
怒鳴って喚いて、あれほど暴れた。そんな親不孝な息子にも、母は毎日食事を作った。少しでも減っていると機嫌をよくして、廊下を通る時に鼻歌なんか奏でていた。
「馬鹿な女だなぁ、って思います。俺は、何一つ返せなかった。亡くなる前に、感謝の一つも言えなかった。愛しているって、言ってやれなかった。」
いつの間にか、食事は全部しょっぱくなっていた。白摩の頬からはだらだらととめどない涙が溢れ、鼻水がだらんと垂れ、上唇に届く。
情けない顔面の息子に、父親が告げる。
「かうんせらの先生は、良い息子だよぉ~。」
「…はい??」
ずびずびと鼻を鳴らす息子に、父親は言い聞かせる。
「親より早く死ぬのが、一番の親不幸ってもんじゃんねぇ~。見てみなさいや、かうんせらの先生は生きているじゃあないの。生きているだけで、最高の親孝行もんさね。」
かうんせらの先生のお母さんは天国で息子見て喜び泣いているよ、と父親は喋る。
「こんな耄碌した老人の世話をして、本当にいい子やねて泣いとるよ。かうんせらの先生が生きていることで、笑顔になっている人たっくさんおるよ。」
かうんせらの先生、だから泣くな。父親は続ける。記憶の大半を忘れかけ、病に身体を冒され、それでも日々をようやく生き抜いている年老いた男がゆっくりと喘鳴の中で声をあげる。
「笑顔でおるんよ。誰かに笑われても、泣かれるよりマシやと思いなさい。なにクソと思って踏ん張りなさい。生きとりゃ、何とかなるよ。」
そこまで言って、父親は大仰に顔を顰める。どこか痛いのかと息子が心配していると、父親は口をもごもごさせる。
「…悪いなぁ。年寄りになると、こう説教臭いことしか言わん。実に嫌やわぁ。」
渋い表情をしている父親に、白摩はしゃくり上げながら答える。
「…そんな、ことないです。白摩さんは、十分心がお若いですよ。」
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