アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
54
-
燦々と輝く太陽の下、父親が息子に眼差しを送る。落ち窪んだ瞳に生命力溢れる意志が宿っている。白摩は服の裾を掴んで、腹の底から声を振り絞る。
「…息子さんは、あなたのことをきっと許していると思いますよ!!」
だって、証拠に息子はここにいる。愚かな父親だと思うけれど、誰だって現状が怖くて逃げてしまう時なんて幾らでもあるだろう。
「身体が元気になったら、今度は息子さんに会いに行きましょうよ。私が許可を申請して、同行します。だから、早く元気になって下さい。」
矢継ぎ早に白摩が言うと、父親はゆっくりと頷き、破顔した。とても美しい、柔らかな笑顔だった。
「…じゃあ、これからちょっと俺は休むよ。」
父親は息子に告げて、車椅子を押す職員を促し、部屋へと戻っていった。白摩は黙って、頭上を仰ぐ。青い青い空。どこか下に、幼馴染がいると信じている。
五分ほど、眺めていた。すると、父親に布団をかけ直していた職員が異変に気づいて、叫ぶ。
「大変です!!…白摩さんの様態が。」
息子は振り向いて、一瞬にして青褪めた。
それからの出来事を、白摩はあまり覚えていない。苦悶に顔を歪める父親の手を握って、ひたすら名前を呼んだ。戻ってこい、死ぬな。一心に願う。処置が終わると、ややしてから父親は瞳を開く。かうんせらの先生、とか弱い声で名を呼ばれる。
「はい。…ここにいますよ。」
ひっしと手を繋ぎ直して、白摩は答える。すると、父親は子守唄を歌ってくれと言った。白摩は躊躇わず、息を吸い込む。昔、母が歌ってくれた子守唄を父親に送る。
歌い終えると、父親の目がふっと和らいだ。
「…ああ、こりゃ女房が息子に歌っていたのと一緒だなぁ。声の調子までそっくりだ。なぁ、かうんせらの先生。アンタ、もしかして…。」
瞬間。スイッチが切れたように、繋いでいた手から力が消えた。ベッドの傍ら、心電図が感情を伴わない声をあげる。白摩は反射で職員を呼ぶボタンを押す。
職員の無数の足音が、こちらに近づいてくる。もうすぐだから、と白摩が縋るように父親を眺める。すると、父親は見たことがないほど安らいだ笑みを浮かべていた。
職員が心臓マッサージをする傍らで、息子は父親の瞼を凝視し続けた。開け、開け。生きてくれ。
臨終です、と職員が述べると頭の片隅で声がした。息子は父親の両肩に手を置いて、緩く揺さぶる。
「…なぁ、白摩さん。息子に会いにいくって言っていたじゃないか。約束しただろう。会おうって…。」
揺さぶりは徐々に大きくなって、最後に白摩は父親の亡骸に縋り付いていた。
「オヤジ、オヤジ…っ!!嘘ついて悪かったよ!!俺がアンタの息子だよ!!全部許すから、帰ってきてくれよ!!また一緒にご飯食べようよ!!俺の歌を聴いてよ!!子守唄…聴きたかったら喉潰してでも何千回だって歌ってやるよ!!なぁ、目ェ開けてくれよ!!俺と思い出作りたいんだろう!?」
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
54 / 68