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揺さぶりはやがて収束し、白摩はその場に崩折れる。
「なぁ、オヤッ…オヤジィィィッ!!」
白摩の瞳に涙がドッと溢れる。この日は必ずくると、前々から覚悟していたはずだ。…人は何故泣くのだろう。悲しみなど、この世で数え切れないほど存在している。一々泣いていてはキリがないのに、それでも人は涙を拭う手を止めようとはしない。…いっそ、泣き続けて生きていけたら楽なのかもしれない。
白摩は布団の上から父親の手に見当をつけて、手を忍び込ませて指をきゅっと握る。返ってくる力は、もうどこにもない。
「…さようなら。」
白摩は父親の横顔に別れを告げ、冷たくなるだけの手に額を擦り付ける。
「ありがとう…。」
白摩のみっともない掠れ声が、部屋に染み渡っていく…。
父親の葬儀を終え、白摩は予想より大幅に滞在したホテルを後にする。暦は変わり、六月中旬。テレビのニュースを見れば、各地梅雨入りの報告が飛び交う頃。雨の頻度が増えてきて、白摩も傘が必須アイテムになりつつあった。ホテルを出て、バタバタして確認しそびれていた携帯を見てみると、時刻は午前十時半過ぎ。佐々のおばさんから十数件の通話とメールが入っていた。慌てて、白摩は連絡する。
『春太くん、やっと出た!!』
電話に出た佐々の母親は、声から気持ちがひしひしと伝わるほど切羽詰っていた。
『久しぶりに、あなたの家に差し入れを持っていったら留守で…。翌日、翌々日と留守じゃない!!おばさん、もう少しであなたの家の窓ガラスを粉々にするつもりだったわよ!!』
「はは…。」
以前、佐々も同じ進入路で自分の自殺を阻止したことがあった。…佐々の家系の血は恐ろしいものがある。
『…で、春太くん、あなた今どこにいるの!?あなたまでどっかに行ったら駄目じゃない!!』
「あ~…。えっと、ちょっと隣県に…。」
『隣県!?まさか、あの子を探しに行ったの??どうしてそこにいるってわかったの??』
え、と白摩は静かに息を呑む。
「おばさん…??俺は小さい頃に行方不明になった父親が、老人ホームに引き取られているって聞いて会いにいったんです。」
『あら…。』
佐々の母親は、自分が妙な勘ぐりをしたと気づいたらしい。口を噤む。
「ミチ、隣県にいるんですか。…おばさん、知っていたんですか!?」
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