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「ミチ…。」
「僕に寄越せェェェッ!!」
異様な目をした幼馴染にそのまま押し倒されて、白摩はぐぅと唸る。相手の腕に爪を立てて、引き剥がそうとする。呼吸が上手くできない。視界がぼやけていく。
「し、にたくな…っ」
「何抜かしてんだ、このウスノロ!!」
繰り返し手首切ったじゃんか、睡眠薬を大量に飲んだだろ、眩む視界の向こう側で孤独に押しつぶされそうな男が吠えている。
「死にたかったんだろ!?母親にいっぱい守ってもらって、父親がどんな状態か知らないまま。ぬくぬく育って、挙句悲劇のヒーローを気取って死のうとしていたんじゃねぇか!!」
「ち、が…。」
違わない、と幼馴染は一蹴する。
「温かい場所で終わりにしたかったんだろ!!これから自分がどんなに恵まれているか思い知らされるから、その前に逃げ出したかったんだろ!!」
ぐいぐいと締め付けられていく。話の内容も飛び飛びに聞こえてくる。駄目かもしれない、と瞳を眇めた、直後だった。
「なんでお前は…おばさんがあんなになる前に、気付かなかったんだよ。」
か細い声をあげたかと思うと、幼馴染の頭が仰向けに倒れている白摩の胸部に置かれる。手の力は急速に緩み、代わりにすすり泣く声が聞こえてきた。
「…ミチ。」
「出てけ。」
しゃくりあげながらも、佐々は涙で潤んだ双眸を迎えの者に向けている。
「うちから出て行け、この人でなしッ!!」
金切り声に、ぐっと奥歯を噛み締めて…白摩は元来た道を引き返していく。いつの間にか、外からは雨音がしていた。玄関を開くと、案の定雨が降っている。白摩は躊躇いもせず、雨雲の下に佇む。雨の雫が全身を穿っていく。頭、肩、足元。静かに目を閉じる。小さく肩が震えだす。嗚咽の衝動が喉からこみ上げてきて、唇がぶるぶると戦慄く。ほどなくして、目頭に熱がせり上がってくる。天を仰いで、白摩は大きく口を開けて、慟哭に任せて叫ぶ。しかし彼の叫びは、遠くに落ちた雷の音にあっけなくかき消されていく…。
濡れそぼった髪から雨雫が落ちていく。頬は濡れ、白摩はまるで泣いたような顔になっていた。肌はうっすらと青褪め、唇の色が悪い。一滴、また一滴と肌の上を雨が伝い落ちていく。水を吸った服はずんと重く、皮膚に張り付いて気持ちが悪い。体温は冷めきり、自分の身体と水の境界が曖昧にさえなってきていた。しかし、白摩はそこに佇み、雨に濡れ続ける。傘は持っている。けれど、開いてどこにいくというのか。本当に会いたい人は目の前にいる。白摩の心境は、行き場をなくした迷子の子犬そっくりだ。
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