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「友達に戻らなくていい!!穴だらけの心なら、俺がこれからお前の傍にずっといて償う!!」
一個ずつ穴を埋めていく、雨音に負けないくらい白摩は声を張る。
「…ミチ。俺の、おふくろが死んだ。オヤジも死んだ。俺に優しくしてくれた峯ヶ屋先生は仏壇で柔らかく笑っていた。俺、おふくろに愛しているって…ありがとうって言えなかった。峯ヶ屋先生には、お別れが言えなかった。オヤジには息子だって名乗れなかった。話したいこと、教えたいこと。たくさんあったのに。この世のどこにもいなくなって、辛かったんだよ、悲しかった。心に空いた穴は、俺にもあるんだ。今でも時々、膿んだ傷みたいにじくじく疼く。」
でもさ、掠れ声で白摩は喋り続ける。
「先生の孫の司さんと親しくなった。司さん、俺が知らない先生の話をたくさん教えてくれるんだ。オヤジとは死ぬ前におふくろの話をした。俺とおふくろへの謝罪もしてもらえた。」
一度存在を失って穿たれた傷は簡単には戻らないよ、白摩が目を眇めると睫毛についていた雫が涙みたいに落ちていく。
「けど、俺、気づいたんだよ。穴は埋められる。他の人の話や生きている時の思い出で、痛みはふっとあったかいものに変わるんだ。」
生きているって素晴らしいな、と白摩はくしゃりと微笑む。
「こうして、ミチともう一度話せた。好きって伝えられた。…生きている限り、穴は埋められる。何かの弾みでまた開いても、一人じゃなきゃ…ううん。もし一人であったとしても、亡くなった人の魂が寄り添っていてくれるならへっちゃらさ。」
だから、と白摩は満面の笑みを作る。玄関扉越しに、伝われと念じる。
「ミチが俺にしてくれたみたいに、今度は俺がミチにたくさん楽しい思い出を作っていく。今までは俺がミチに支えられてばっかだから、これからは俺がお前を支えて歩く番。…そうやって、助け合って二人で生きていこうよ。ミチが今、俺を嫌いでも一年、五年、十年後…。ううん、俺が死ぬ時まで待っている。息絶える一瞬でもいい。いつか好きになってもらえるよう、ずっとお前の傍にいる!!」
「うるさい、うるさい…っ!!お前の妄想になんか付き合っていられるか!!」
「妄想なんかじゃない!!」
自分の想像を信じたくて、白摩は口を開く。息を吸う。歌を口ずさむ。…楠田が持ってきたDVDの中で、佐々が歌っていた曲を奏でる。佐々が、自分のために作ってくれた曲を歌う。
途端、がらりと扉が相手びしょ濡れの白摩の身体が抱きしめられる。
「…僕が、お前の歌声に弱いの知っていてやっているだろ、それ…!!」
温かな腕の中で、白摩は瞳を潤ませる。
「ごめんな。…俺、小さい頃からずっとお前が好きで。男同士でおかしいってわかっているのに、好きは止められなくて。おふくろは人並みの人生をずっと俺に望んでいたのに。…親子を裏切ったのはおふくろじゃない、俺自身だと思ってなかなか向き合えずにいたんだ。」
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