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二人は砂利の敷かれたレールを眺めながら、淡々と喋る。
「…俺、介護福祉士を目指そうと思う。」
佐々は、恋人の横顔を意外そうに見つめる。白摩は、真剣な表情を浮かべていた。
「おふくろが亡くなった時、もっといい言葉かけてやれば良かったって。死ぬほど後悔しているんだ。…んで、これから俺は何が出来るって思った時、真っ先に老人ホームで動いていた職員さんを思い出した。」
生命の灯火を燃やしながら精一杯生きている人達の、助けになりたいと白摩は話す。
「何年かかるかわかんねェ~けど、やってみたい。」
「…ハル。歌は、もう歌わないのか??」
一瞬、目を点にした白摩は歌かぁ、と呟いて両腕を後頭部に回す。
「ううん、歌いたい。…けど、いきなり人前は勘弁だな。あと、ミチには悪いけどプロを志すほどの腕前でもないって前々から思っていた…。俺のは、制約なしの状態でこそ出せる歌声じゃないかな。少なくとも、現段階では。あっ、でもでも、趣味の範囲として歌っていきたいとは考えている。ストリートライブとか…うん。やってみたい!!ミチ、伴奏を頼めるか??」
佐々は一気に口元を緩めて、うんと囁くように返す。それから、佐々は空いた手で幼馴染の片頬に手をやる。幼馴染はそっと目を瞑る。互いの唇が重なって、離れる。ほんの一瞬。佐々の瞳が、目標を定めた彼をしっかりと捉える。
「…ハル、本当にかわいい。」
「ん…。かわいいなら次はもっと丁重に扱って欲しいカモ…。」
かわいいから手加減できないんだよ、と返す佐々は、ホームに灰色の鳩を認めて、目を眇める。恋人の視線を追った白摩が、あっと声を上げる。
「鳩だ。」
「キジバト、という種類だそうだよ。」
僕は灰色の鳩が可哀想だ、と佐々は遠目に鳥を眺める。
「白い鳩は”平和の象徴”とされているのに、駅のホームや公園によくいるキジバトは白と比べると煤けたイメージのする灰色じゃないか。」
僕はね、と佐々の視線は鳩に注がれている。
「僕は、これから身の振り方を決めていこうと思う。今までの僕はさ、白い鳩みたいになりたかったんだよ。平穏な日々をもたらす者として、みんなの手本となるような、そんな人間になりたかったんだ。」
だからキジバトを見るといっそう哀れに見える、と告げる幼馴染に白摩は返す。
「そうか??…俺は白い鳩より灰色の方が好きだ。」
だって純白だと逆に近寄りがたいだろう、と白摩は口をへの字にする。
「灰色のが親近感が沸くもん。…人間も同じ。俺としては、挫折を知らない、痛みを知らない完璧人間は眩しくて傍に居続けらんないよ。」
それに何より、と白摩は幼馴染を見つめて微笑む。
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