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それを知るための代償
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「たっだいまー!」
「そんなに大声で言わんでも聞こえんだろ」
ゼル達の家に突然響いた明るくよく通る声とそれを咎める落ち着いた声。その声の持ち主は都から帰ってきたシャナとフール。しかしシャナの帰宅を知らせる声には何も帰って来ない。
「あれ?みんないないのー?」
「出かけてるのかもな」
「あ、ウェルドは集まりだって!書き置きあったよ!」
「そうか。シャナ、食料を備蓄庫に移すぞ」
「はぁい」
ウェルドはゼルとリンが出てから定期的に行われるリーダー同士の集まりに向かっていた。
その途中、この町に住み始めた頃の自分たちは10代で周りに同じような歳のグループはなく、住む許可を得るのに苦労した事をウェルドは思い出していた。
自分たちがなぜここに来たかを1から話し、住まわせて欲しいと頭を下げた。彼の腕に残る傷跡はその時に出来た傷。この『盗賊の町』に住むグループのリーダーの腕には必ず同じような傷跡がある。言わば入会手数料のようなものだ。
腕を真っ赤に染めて戻って来たウェルドに4人は酷く驚いた。それでも住処を得られたのはその時の彼らにとって何よりもの吉報。彼らのいた孤児院は国同士の争いに巻き込まれ燃えてしまっていたので早急に寝床が欲しかった。
「…ゼルとリン帰って来る頃だ!」
「こらシャナ!まだ終わってないぞ!」
元々この家にあった古い柱時計の6時を知らせるベルの音がシャナの耳に届くと、彼は作業を放り出して玄関へと駆け出した。
「おれはゼルをお出迎えするんだ!」
フールの声など今の彼には届かない。ゼルを出迎える事で頭がいっぱいなシャナの耳はゼルの声しか拾おうとしていない。
玄関を飛び出すと、外は先ほどよりも冷たい空気に満ちていた。けれも興奮気味のシャナにはちょうど良かった。
「…ったく。作業の途中だったのに」
「ならフールがやっといて!なんで来たの?」
「お前がゼルとリンに飛びついて、2人がせっかく採ってきた食料がばら撒かれるのを防ぐためだよ」
「そーんなこと言っちゃって。本当はフールもゼルとリンに会いたいんでしょ」
「…そうだな、会いたいな。会って抱きしめて、キスでもしたいな」
ニヤリと口角を上げるフールに対してシャナは焦ったように声をあげる。
「や、やめてよ!ゼルはおれと仲良くするの!」
「ゼルに、とは言ってねぇよ。ほら、あれゼルとリンじゃないか?」
フールの方が先に森への出入り口から出てくる2人の姿を見つけた。彼らの籠を見ると今日もなかなかの収穫量のようだ。
「ゼル〜!リン〜!」
シャナは大きく手を振りながら2人の名を呼んでいる。しかし2人とも両手がふさがっていて振り返すことはできない。
だんだん大きくなる2人の姿にシャナはそわそわしていて今にも駆け出しそうな勢いだが、それを防ぐのがフールの役目でもある。今回は食料が落ちて再び拾うと言う手間はかからなそうだ、とフールがいる事にゼルとリンは安心していた。
「お疲れ様、2人とも」
「フールもお疲れ。都からはいつ?」
「ついさっき。半分持つ」
ゼルよりもリンの持つ荷物の量が多いのはいつもの事で、それを手伝ってくれるのもフール。フールはグループの頼れる兄貴、と言ったポジションにいる。
「ゼルおかえり〜〜」
「シャナもおかえり。都はどうだった」
「いつも通りかな、あそこはいっつもつまんない!」
合流した4人は家へと戻り、備蓄庫へしまう係のフールとリン、夕食を準備する係のゼル、特になにもしないシャナ、とそれぞれに別れる。
「都、何もなかったか?」
「まぁ、表面だけ見ればな。以前より男の数が減ったように思う。また始まるかもな」
「そっか。なら周辺の見回り強化をウェルドに会議に出してもらったり…」
「そうだな。次の会議は俺も付いて行こうかと…」
都の状況とこれからの対策を話し合う2人の空気は暗く重い。それに対してキッチンでは食事の準備をしているゼルの周りをウロウロするシャナがいた。
「シャナ…危ないから座ってて」
「だってぇ」
「だってじゃない。シャナお願い、怪我したら大変」
「…はぁい」
ゼルの真面目な顔にシャナは渋々ソファーの上で小さくなる。シャナの背中を見送り、ゼルは再び調理を再開した。
外では夜がひたひたと近づいてきていた。
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