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それを知るための代償
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『盗賊の町』の夜は暗い。家には人がいるはずなのに明かりは見えないのは、1階にあるすべての窓を布や木材で塞いでしまっているからだ。この町のグループを警戒しているわけではなく、違う町の盗賊の侵入を防ぐためにそうしている。
そんな当然の防犯を全くしていないのがゼル達の家。都ならば当たり前なのだろうが、この町では異様に明るく見えてしまう。けれど集まりから帰ってくるウェルドにとって、家の明かりはとても安心できるものだった。
「…ただいま」
玄関を開けると、ふわりと晩御飯の香りが鼻腔をくすぐる。
「おかえりなさい」
リビングの方からゼルが出迎えに出てくると、それに続いてシャナ、リン、フールと全員が出てきた。大げさな出迎えはすっかり恒例になっている。
「ウェルドおかえり!」
「おー、遅かったな」
「お疲れ様、ウェルド」
「待たせて悪いな、食事にしよう」
血の繋がりのない家族の出迎えに疲れ切ったウェルドの心に少しの余裕を与えた。
食事を終え、各々自由な時間を過ごしている横でウェルドとフールはコーヒー片手に難しい顔を突き合わせていた。リーダーの集まりがあった夜は決まってこうだ。たまにその話し合いに参加するリンは皿洗い中なので今回は2人の会議。
「…相手がどこかにもよるな」
「おそらくだが、西の国だ。最近西から戻って来た商人がやたら兵隊が目に付いたと言っていたらしい」
議題は王国が起こそうとしている争いについて。
「西か…」
「今回の争い本体によるこちら側までの被害はそうないと見ていいはず。だが…」
「東が黙ってないって事な。奴らにとっちゃ絶好のチャンスだもんなぁ」
「そう。東からしてみればまたとない攻め時。ここが道から外れているからと言って安心はできない。東も何やら動いていると聞いた」
「やはり見回りの強化を…」
「それも検討しているが…」
昔、孤児院を失った時の事が多少なりともトラウマになっているのだろう。ウェルドとフールはあの時、炎に囲まれながらも辛うじて守った仲間を必死に守ろうとしているのだ。2人の責任感の強さは歳に似合わない。
「怖い顔してるね〜」
低い声でやり取りをする2人を見ながらシャナがつまらなそうに呟く。
「そうだね。きっと大切な話なんだよ」
ページを捲る手を止めてゼルも2人を盗み見る。何だか眉間にシワがよっていて老けているように見えた。皿洗いを終えたリンが2人の横を静かに通ってゼル側の肘掛に腰を下ろす。
「難しい話は人を老けさせるな。ところでゼル、今は何の本を読んでるんだ?」
「今は…神様の本」
食後に本を読むのがゼルの習慣。本は大体ウェルドがお金で買ってくる。たまに同じ町に住む盗賊に誘われて日雇いの仕事をした時に、ゼルの好みなどは分からないので適当に、目に付いたものを買ってくるのだ。
今回はどうやら神々の話のようで、ゼルは夢中になって読んでいた。
しかしゼルは知らない。
その本に書かれている話は全くのでっち上げである事を。
そして本当の“神”という存在を知る時がすぐそこまで近づいている事を。
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