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それを知るための代償
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昼間の賑やかな市には商人の声が飛び交い、様々な取引がそこかしこで行われている。都は今日も今日とて騒がしい。
一段と賑わっているのは祭りが近づいているせいもあった。『喜神祭』と呼ばれるその祭りでは、“神の末裔”と言われる王国を治める王族に感謝の意として食料や工芸品、調度品、家畜などを送る。これは国民たちが王様は神様であると信じているから成り立つ祭りだ。
「祭りが近づくと賑わうな」
「そうだね。フール、今日のリスト貰ってるから見て。どこから行くか決めてくれると助かる」
「ん、どれどれ…」
人が行き交う市場の隅でゼルとフールは何食わぬ顔で盗みの算段を立てていた。それが悪さをする前だとは誰も気づかない。
「…?」
ふとゼルの視界に白い猫が映り込んだ。見たことのない、けれどどこかで見たような気がするその猫は路地の奥からじっと彼を見つめ、ただ黙って座っている。
『ゼル』
「?、なに、呼んだ?」
「…ん?もうちょい待っててな」
ゼルの耳に届いた声はフールのものではない。1人、ゼルには思い当たる人物がいた。人物と呼んで良いのかは些か疑問だが。
ゼルは再び猫を見る。
『ゼル、お前は知る権利を与えられた』
「(…何を)」
『神だよ。真の神を知る権利だ』
「!」
口に出していないのに猫はゼルの疑問に答えを返してきた。どうやら猫には全て伝わるようだ。
「(神様の事なら本で読んだ)」
そこでふと気がついた。なぜか先程まで聞こえていた市場の喧騒はピタリと止み、ゼルの意識は猫の側にある。
『お前は人間がでっちあげで書いたものを信じるというのか?実際にその目で見てもいないのに?この世の始まり全てを理解するに足りる頭を持っているのに』
猫はクスクスと笑って尻尾をゆらりと揺らす。まるで本を信じるゼルを小馬鹿にするように。
「神様は見えない」
『ただの人間ならば、だ。言っただろう、お前は選ばれたんだ』
「今の僕には見える?」
『あぁ。しかし神は上の世界にいるからそこに行かねばならない。私と来る気はあるか』
「上…」
一歩、足を踏み出す。この猫が何者なのか、これが天使の囁きか悪魔の呟きかはゼルにとってどうでも良かった。ただ彼は神をこの目で見たいと思ってしまった。
『…そのまま私について来なさい』
くるりとその柔らかな体を翻して猫はゆったりとした足取りで路地の奥へと歩いて行く。
「…あ、でも皆が心配する」
『一時的に彼らの記憶からお前を消しておくことができる』
賑わう市場の路地の奥。ゼルと白い猫は少しずつ黒に飲み込まれていった。
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