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それを知るための代償
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境に足を踏み入れると周りから風景がなくなり、暗い空間が広がった。聞こえるのはゼルの足音が反響して返ってくる音だけ。
『お前を呼んだのは人間の世界を作った方だ。太古の昔に一度だけ下の世界に降りたことがあってな、違う名で伝わっている』
「違う名?」
『ドラゴン、と言えばわかるか?聞いたことはあるだろ?』
勿論ゼルも知っている名だ。大きな体は赤く硬い皮膚に覆われ、背には翼を背負った姿をしている。空想の生き物かと思っていたが、実際に存在するらしい。
なぜ自分は神の世界へ呼ばれたのか、ゼルはわからないまま猫について行く。
「ドラゴンって本当にいるんだ」
小さく呟くゼルの心はすっかり浮かれ、弾んでいた。伝説や言い伝えでしか聞いたことのない生き物をこの目で確かめられるなんて思ってもいない幸運だ。
『…ついたぞ』
猫がゼルを横目で見上げながらゆらりと尻尾を揺らす。視線を前に戻すとどこまでも続く草原が広がっていた。
『ここが神の住む世界』
「ここが…」
あまりの広さと美しさに呆然とするゼルを影が覆った。
『お迎えに来てくださったようだ』
スルスルとゼルの肩に登った猫と一緒に空を見上げると真っ白な鳥のような生物が旋回していた。この白い鳥が人間の世界を作り、ゼルを呼んだ神。しばらく見ていて、ゼルはその異様な大きさに気がついた。森や街で見かける鳥よりも何十倍、何百倍も大きい。
「おっきい…っ」
翼を動かすたびに体を押されるほどの風が吹く。ドスン、と重い音を響かせて神はゼルの前に降り立った。光を受けて煌めく白い羽根に宝石のように輝く蒼い瞳。
『よう来たな、ゼル。遠かったろう、疲れてはいないか?』
「あ、あの…」
『名と言えるものは持ち合わせてはおらんでな。そこのヴァイスにはホフヌングと呼んでもらっておる』
何となく、猫と雄鹿とどこか違うのを感じた。空気というか、オーラというか。先程からゼルが上手く言葉を出せていないのはこの神の存在に圧されているのだ。
「…」
『この姿では話し難かろう』
そう目を細めるとホフヌングの体がみるみるうちに小さくなっていき、そこに現れたのは肌と髪は白く、瞳は蒼の青年だった。
「さて、付いてきなさい」
ホフヌングが変化した青年はゼルを連れて小高い丘へを上へと登り始めた。
「あの…」
「なぜ君を選んだか、だろう?焦らずとも知れるさ」
白い青年の口調は見た目とはあまり合致しないものだったが、不思議と違和感はない。
「僕を選んだのは貴方…なんですか?」
「君の生まれに理由があるのだ」
丘の頂点に着くと、眼下には大きな湖が広がった。その周りには姿を変える前のホフヌングのように大きく、それでいて美しい鳥がくつろいでいた。
「1人として同じ神はいない。少し似ていたりはするがな。ほれ、あれを見ろ」
ホフヌングが指差す先には大きな教会らしき建物が建っていた。
「あそこに向かうぞ」
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