アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
朝丘陽向という男-1
-
兄と話した後、じっくりと会話の内容を反芻していくうちに、俺の中では段々と気持ちの整理ができて来た。
しかし今になって百瀬に打ち明ける事を躊躇してしまう臆病な俺がいる。
俺がハマって読み漁っているボーイズラブには、意外と近親相姦ものが多いのだが、そういう小説を読んでいない者にとっては免疫もないだろうし、その禁忌を受け入れられないのではないだろうかと思えて来た。
部屋で唸っていても仕方が無いので、久しぶりに食堂で腹ごしらえをすることにしよう。
俺は適当な私服に着替えると、財布とスマホだけをポケットに入れて寮の食堂へ向かった。
兄と話をしたことによってかなり気分は楽になったので、食欲もいつもよりはあるような気がする。少し時間がずれていたせいか食堂はかなり空いていて、席は選びたい放題だ。
しかしいつもの癖で隅っこのテーブルに着いた俺は、タッチパネルで月見うどんを頼み、百瀬に何から話すか頭の中で構成を練ることにした。
「よお、佐藤。お前が食堂に来るなんて珍しいな」
うわあ、眩しい系世話焼き野郎が来てしまった。ここでシカトを決めても諦めるわけがないし、しぶとい性格の朝丘に勝てる気がしねえ。
俺は仕方なく頭上で聞こえる声の主へと顔を上げた。
「静かに食べたいのだが……」
「はっ、つれないな。昔みたいに話せよ」
「……昔みたいに?」
朝丘は外部生だから入学式からの知り合いではないのか?
俺は、しまったという顔をしている朝丘の顔をじーっと見つめ続けた。
なにか引っかかるものがあったのだ。誰も近寄らない俺のそばに居続けて、やたらと絡んでくる物好きな男だと思ってはいたが、よく考えると不自然すぎる。
「朝丘、お前俺のこと知ってたんだな。初対面にしちゃあ馴れ馴れしいと思ってたんだ。俺の周りでコソコソ嗅ぎ回るのは辞めてくれないか」
こいつは不気味な俺を気に入ってくれているんじゃないかと、密かに期待していた俺が馬鹿だったのか?
「一体何が目的で近付いたんだよ」
咎める俺を見た朝丘は、はあああっとため息をつくと俺の前の席にドカッと座り、綺麗に切り揃えられた髪をクシャクシャにかき乱した後、俺の顔の前に指を突きつけた。
「おい佐藤。その言い草はあんまりじゃないか。お前が気がつくまで黙っていようと思ってたけどな、もうどうでもいいわ。俺たちは中学ん時の親友。思い出せよ馬鹿!」
そう一気に話終えると突きつけた指で俺の額にデコピンしやがった。
「つっ、いってえなあおい!何すんだよ!しかも俺とお前が親友とかありえな……」
その時よく日焼けしたくりくり坊主の少年の姿が目の前をちらついた。げっ!知ってるも何もこいつは……。
親しくつるんでいたやつの顔が頭に浮かび、目の前の青年と重ね合わせたら、うっすらと面影が残っている。
「お、お前。あの、朝丘なのか」
俺が驚きのあまり声を詰まらせていると、丁度頼んでいた月見うどんが来たので、まあ食えよと促され、渋々食べることにした。
俺がもそもそ食べている間に朝丘が注文した焼肉定食もやって来て、ガツガツ食べ始めた。こいつは食べるのが早い。結局同時に食べ終えた俺たちは、人も少ないのでこのまま食堂の片隅で話を続ける事にする。
朝丘は紛れもなく伯父夫婦に引き取られた後、通っていた中学時代の親友だ。当時の朝丘は背が低く日によく焼けていて坊主頭だったが、かなりの人気者で皆から慕われていた。
そういえば自分で言うのもなんだが俺も当時はそれなりに人気があったなと思い出して照れくさくなった。
朝丘は陸上部で俺はサッカー部だ。部活が終わるとどちらともなく終わるのを待って、肩を組んでガハガハ笑いながら帰ったものだ。
あの朝丘がグレードアップしてこんなに爽やかイケメンに進化しているとは!
月日が流れると共に人は成長するもんなんだなと、俺は素直に感想を言ったのだが、朝丘は少し拗ねたような顔をしている。
「佐藤も凄い方向に進化したよな!マジで驚いた。それでも俺はお前のことを一目見たらすぐに分かったんだぞ!お前は全く覚えて無かったみたいだけどな!」
あーね。そりゃあ怒りたくもなるわな。どう謝ろうかとウンウン唸っていると、朝丘の大きな手のひらが、ボサボサの俺の頭の上にふわりと乗っかった。
「まあ仕方ねえよな。……なんか色々あったんだろ?お前が急に学校に来なくなってから何回か家まで行ったけどさ、おじさんもおばさんも何だかやつれてたし、しつこく聞けなかったんだよ」
思春期の突然学校に行きたくなくなる病がある事は色んなやつから聞いていたし、そっとしておこうと思って静かにしていたら突然転校するんだもんな。一言もないなんて水臭いぜ、と唇を尖らせながらもあまり責める様子のない朝丘を有難いと思う。
それにこんな俺でも見つけてくれた。忘れられていなかったのだと思うと目頭が熱くなって来て、柄にもなく鼻水をぐずぐず言わせてしまった。
その時ぬっと俺たちのテーブルに影が落ちたのでビビって見上げると、恐ろしいほどの美貌がこれまた恐ろしい目を朝丘に向けている。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
54 / 96