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鈍感すぎる百瀬-2
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「君たち馬鹿だろ。TPOを考えろよな」
トイレから戻って来た大杉が呆れた顔で俺たちを見下ろしていた。
百瀬は軽めに叩かれたようで、控え目な音がしたのに対し、俺には椅子から転げ落ちる程の力のこもった鉄拳が頭上に振り下ろされた。愛ゆえの差だろうか。痛え。
「佐藤、大丈夫か?」
慌てる百瀬のすぐ横で、来たーー!複数攻め様!三角関係はぁはぁ、と興奮する彼女たちを見て、複数萌え分かる!と共感しながら頭を摩り続けていた。
「まったく……人目も憚らずにイチャイチャと。きちんと節度を守ってだな……」
どうやら大杉は説教魔だったようで、あの後店から引きずり出されてからは、この調子でお叱りを受けているのだ。俺たちを連れ出す時、百瀬の腕を掴んだ大杉が、嬉しそうにその近さを堪能していたことには目を瞑ってやろう。
百瀬は風紀を乱すようなことをするなと言われ、本来責任感の強い男なので今ではへこんでいる。俺もやり過ぎた感はあったので、ここは素直になり反省しておくことにした。しかし説教長ぇ。
「俺まだ目当ての本屋に行ってねえんだよな」
話を遮られた大杉がなにやら怒鳴っているが、知ったこっちゃない。俺はきちんと反省したら繰り返さない努力はするが、延々と続くであろうお小言を長々と聞くつもりは無いのだ。
「ったく。仕方の無いやつだな。ここら辺なら福島堂が種類が揃ってる。行くぞ」
なんだかんだ言っても気の良い大杉は、俺が元々行きたかった本屋に連れて行ってくれるようで、拘束していた俺の腕を離してくれた。未だにゆるく百瀬の腕を掴み続けているのは、まあ大目に見ておこう。
恵まれた体格と、誰もが振り返る容姿を持つ百瀬と大杉はかなり目立ち、通りすがりに殆どの人が、二度見をしたあと惚けているのが憎々しい。
相変わらず不気味な顔と長身ながらも貧相な身体で、かなり浮きまくった俺の姿は、この二人に連行されている宇宙人のように見えるだろう。
「俺が持ってやるから、好きなだけ買えばいい」
「おい、佐藤の荷物を持っていいのは、俺だけに与えられた特権だぞ!」
せっかく申し出てくれた大杉の親切を無下に断り、変な対抗意識を燃やした百瀬の言葉は、下僕でありますと言ってるようなものだ。大杉が若干引いているのを見て吹き出しそうになった。
「百瀬がそんなに言うなら、俺は持たないから安心しろ」
百瀬の腕を離した大杉は、今では肩を抱いているのだが、体育会系なので一見男くさい青春に見えなくもない。しかしさり気なく百瀬をエスコートし、甘く微笑んでる様子は明らかに友情とは言えないぞ。
「分かってないのは百瀬だけかよ」
荷物持ちを承諾してもらいご満悦の百瀬には、大杉から寄せられる恋愛感情が分からないようで、不憫な短髪黒髪男を見ながらポツリと零してしまった。
ーーしかし大杉のやつ、百瀬のこと諦めるんじゃねえのか?
大杉が自分自身の甘々な態度に気付いていない説か浮上して来たが、少なくとも他人の機微に聡い神崎なら全てお見通しだったはずだ。
ーーわざと俺たちを三人にして、今後の動向を楽しむつもりなのかも知れないな。
キラキラ王子の神崎が、突如腹黒王子に思えて来た俺は、今頃朝丘と二人で楽しく過ごしているであろう黒王子に、絶対仕返ししてやるぞと鼻息荒く意気込んでいた。
「あー、すまん。佐藤、俺にはそんな気は無いからな」
黒王子に腹を立てている俺の様子に勘違いをしたのか、鋭いようでどこか抜けている大杉が慌てて百瀬から離れると、申し訳なさそうに弁解して来たので、いいやと首を横に振っておいた。
「そんな気!?大杉!貴様おれの佐藤に良からぬ考えを持っていたのか」
『そんな気』が自分に向けられているとも知らず、ぷりぷり怒っている百瀬は馬鹿なのだろうか……。
「大杉……その、お前も苦労したんだな」
「ははっ」
俺の労いに乾いた笑いで応える柔道部のエースがなんだか気の毒になって、思わず手の平を向けると小気味好い音を鳴らしてハイタッチが返ってきた。
最近アホの子要素が増えた百瀬が、再び対抗意識を燃やし、我も我もと手の平を見せて来たので、赤くなるほど強く叩き込んでおいた。
ーーだから、瞬時に反応してんじゃねえよ。
ショッピングバッグで股間を隠した百瀬を見て、呆れた顔で溜息を吐く俺を、不思議そうに大杉が眺めていた。
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