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郁人と角松と藤沢-2
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その日も隼人に差し入れをして電車で帰って来た郁人は、お金に困り出したので何でも良いから仕事をしたいと角松に相談しようと意気込んでいた。
流行る気持ちを抑えきれず、角松の家に帰るなり勢いよく声もかけずに角松の部屋の襖を開けて、中に入って行った。
「ん、あっ、はぁはぁ、あぁ。はっ」
「くっ、今日は、いつもより、締ま……」
そこで見たものは男同士が激しく交じり合う姿であった。驚き過ぎた郁人は尻餅を付いてしまい、その様子に気がついた男二人は郁人を視界に入れると慌てて離れた。
一人はこの家の主である角松で、もう一人は年齢が良くわからないが、男から見ても美しい顔をした品の良さそうな男性だった。
「は、すまん。す、すぐに出ていく」
パニックになった郁人は自分に宛てがわれた部屋に入ると、混乱しながら荷物をまとめ、そのまま家を出ようとした。
「郁人待て!お前が出ていく必要は無い」
急いで服を着たのであろう角松が、動揺しまくっている郁人の腕を掴むとゆっくりと茶の間に連れ戻し、座布団の上にそうっと座らせた。
「とんだ所をお見せしてしまい悪かったね。私は帰るよ」
角松の部屋からは三つ揃いスーツを見事に着こなし、いかにも仕事の出来そうな隙のない男が、郁人に謝罪をしながら出て来た。郁人は何も言えず目を逸らすと俯いてしまったが、スーツの男が息を呑む様子が気になり不思議そうに相手を見た。
「君は……佐藤の弟ではないのかな……郁人くん、だよね」
こんな上等な男に知り合いは居ないと首を傾げている郁人に、スーツの男は気まずそうな顔をして名乗り始めた。
「私は君のお兄さんの親友で、:藤沢凛太郎(ふじさわりんたろう)という者だよ。君にも面識があるのだが……忘れてしまったかな」
何故か苦しそうに言う藤沢の顔を見て郁人は、あ!と声を上げた。兄が中学から高校までの間、頻繁に家に遊びに来ていた優しいお兄さん。それが藤沢凛太郎だったのだ。
「思い出したよ。世間て狭いんだな」
郁人は懐かしさのあまり笑顔で藤沢を見つめていた。藤沢は良く我が家で晩飯を食べて帰るほど家族からも可愛いがられていて、郁人もテスト勉強を見てもらって世話になっていたのだ。
二つ歳上のお兄さんは本当の兄より優しくて、郁人は随分と懐いていたものだ。
「でも藤沢さん、俺が高一の時にぱったり来なくなってさ。俺、寂しかったんだぜ」
口を尖らせる郁人はとても四十歳には見えないほど幼さを残している。世間一般では立派なオッサンには違いないのだが。
「ああ。あの時は、その、事情があったんだ。寂しいと思ってもらえたんだね」
郁人はどんな事情があったのかとても気にしていたので、しつこく問い詰め続けた。
「俺、なんか気に触ることでも言ったか?兄にはお前のせいだと言われて訳わかんなくてよ。それならそうと言ってくれりゃあ良かったのに」
藤沢は美しい顔に切なさを浮かべ、黙り込んでしまった。
「おう、そこまでだ。郁人、お前ちょっと強引だな。とりあえず落ち着けよ」
角松に止められて郁人も大人気無かったと反省し、それ以上その話をするのはやめておいた。
「俺そういえば、お前らの邪魔をしたんだよな、すまん。二人は恋人なのか?」
郁人の質問に藤沢の顔が、あからさまに悲しみに包まれていくのが分かり、慌てて口を噤んだ。
「藤沢……前に言ってたやつは、こいつのことで間違いないな?ならば全部話してスッキリしちまえよ。これも何かの縁だろ」
角松の言葉に静かに頷いた藤沢がちゃぶ台に座ったので、角松もそれに次いだ。
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