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郁人と角松と藤沢-3
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「私はゲイなんだ。物心ついた頃から男性しか恋愛対象にはなれなかった」
藤沢の話を真剣に聞いていた郁人は先程の情事を見た後なので、すんなり受け止めることが出来た。
「私にはとても好きな人が居てね、初恋だったんだ。その人に近づくために色々と努力もしたよ」
角松は音も立てずにすっと立ち上がると台所へ行き、お茶の用意をし始めた。
「相手は異性愛者で私には最初から勝算は無かった。でもどうしても諦められなくて、その子の家にまで出入りして……なるべく側にいようとしたんだ」
ん?もしかしてそれは我が家だろうか。そう思った郁人は藤沢が好きな相手が兄ではないかと思った。兄は完全な異性愛者で、当時から女性とお付き合いをしていたはずだ。
「でも私の泡沫の恋が終わったんだ。彼に彼女が出来てしまってね。当時の私は耐えられなくて、その子の前では平静を保てなかったんだ」
そこで角松がお茶を入れて帰って来た。思い詰めている藤沢にまあ飲めと勧めているので、郁人もひと口飲んで次の言葉を待った。
「彼女との仲睦まじい姿を見るのが苦しくて、その家には二度と行けなくなったんだ。郁人くん……君のことだよ」
郁人は驚いた。まさかあの優しいお兄さんが自分を好きだなんて思いもしなかったのだ。確かに藤沢が来なくなる前に初めての彼女が出来た郁人は、浮かれきって頻繁に部屋に呼んでいたのだ。
「そうだったんだ。で、そのことを兄は知ってたんだな」
「ああ、そうだよ。君のお兄さんは、私がゲイだと告白しても全く態度を変えること無く親友で居てくれたんだ」
郁人は頭の固そうな兄の顔を思い浮かべ、意外と柔軟な考えを持っていることに感心した。
「私は君から逃げてしまったために、今でもその想いを引きずっているんだ」
郁人は同性愛に嫌悪感はないし、人を好きになることは自由だとも思っている。しかし自分が対象者となっていたことには正直驚いた。だがここまで包み隠さず話してくれた藤沢に好感を持ったのも事実だ。
「俺のことを好きになってくれて、ありがとうな」
心から感謝の言葉を口に出したのだが、藤沢は信じられないと言った表情で郁人の顔を見ている。
「そんな……私が気持ち悪くないのかい?」
藤沢の言葉に逆に驚いた郁人は、彼に自分のことを卑下して欲しくはなかった。しかしキッパリ言うことがこの人のためでもあると思い、ゆっくりと落ち着いた声で話した。
「そんなことは無い。だが俺は異性愛者だから、藤沢さんと実ることは、後にも先にも無いんだ」
その言葉に一瞬寂しそうな顔をした藤沢だが、困り眉と眉間のシワを消して、憑き物が落ちたように表情に柔らかみが戻っている。
「ハッキリ言ってくれて良かったよ。郁人くんありがとう」
藤沢は涙で滲んだ目を瞬きで誤魔化すと、いつまでも若々しい端正な顔に微笑みを浮かべた。
「郁人、変に思わせぶりなことを言った時は、叱り飛ばしてやろうと思ってたんだ。選択を間違えなかったようだな」
角松の言葉を聞いてぶるっと震えた郁人だが、やはり気になることがあり、この際確認しておこうと思い表情を引き締めた。
「もし二人が恋人なら俺はここには居られない。住み込みの仕事を見つけてすぐに出て行くぞ?」
「はあ……あのな、郁人。ノンケのお前には理解しづらいかも知らねえがよ。ゲイはなかなかお相手が見つからねえんだ。だから気のあったやつがいたら、快楽を求めてセックスする。それだけだ。俺たちは恋人じゃねえよ」
「そ、うなのか?」
「郁人と初めて会ったあの夜も、体の相性が良い男と慰め合った後なんだぜ」
セフレなど思い付きもしないであろうウブな男に、呆れた顔をした角松が諭すように説明をすると、郁人にも何となくニュアンスが伝わったようだ。
「しかしだな、もうこの家では今日みたいなことはしねえから安心しろ」
藤沢も長年の想い人だった男が居る家で、そんな気は起きないと思っていたので、角松の言葉に素早く同意すると、その日は茶の間に布団を敷いて別々に寝ることにした。
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