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そして丸くおさまる-2
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「郁人くん……君の兄さんには私から話しておくよ。隼人くんが許したのなら彼は何も言わないさ」
藤沢理事長が親父に提案したのだが、その言葉を聞いて親父が絶望した顔をしたので、まだ何か問題でもあるのかよとうんざりした。
「その、兄には隼人と会うことは禁じられているんだ」
さっきの話にも出て来たが、伯父……父さんは俺を引き取ったあと、弟である俺の親父の安否を気づかって、興信所まで頼んで探していたんだよな。
そこまでして見付けようとしたのは、俺を養子にする手続きの為だけでは無いと思うんだ。今度こそ話し合えばきっと父さんだって……。
「兄と約束したんだ。隼人はもう前に進んでいる。だから俺は隼人の邪魔はしない。……隼人、今日は会えて嬉しかったよ……元気に過ごせよな」
勝手に自己完結してつらつら話す親父に、俺を含めた全員が呆れ果てた。
「親父が邪魔になるかは俺が決める。そして……俺には親父が必要だ。だから邪魔とか言うなよ」
黙り込む親父の代わりに周りからは鼻をすする音がし始めた。百瀬と理事長だ。この二人は意外と情が深いようだ。
「郁人くん。君の兄さんは話せばわかる人だ。戸籍上、彼は隼人くんの父親だが血の繋がりを無視することは出来ないさ」
親父はほんの少しだけ元気を取り戻し、理事長にありがとうと礼を述べた。
「藤沢さん面倒かけたな。今回のことは俺から兄に話すよ。いつまでも逃げてはいられねえからな」
ほっと息を吐いた親父の目には、強い意志が込められていた。
「はいはいはい。難しい話は終わりだ!今夜はここに泊まっていけよ」
いいタイミングで角松が締めてくれたので、そこらじゅうに緊迫していた空気が一気に柔らかいものへと変わっていった。
グルルル……キュルルルルル
「何の音だよ」
野獣が唸ったような音が響いたので周りをキョロキョロと見回していたら、皆の視線が一斉に百瀬に向けられていることに気がついた。
注目を浴びている百瀬はバツが悪そうに俺とちゃぶ台の上を交互に見ると、腹に手を当てて何かを伝えたいようだ。
「……あーね。理事長、残りの豚まんを百瀬にやっても良いですかね。ったく卑しいやつですみません」
「……っ」
獣の唸り声の正体は紛れもなく百瀬の腹の虫だ。男子高校生の食欲をすっかり舐めていた。そう言えば朝昼兼用のおにぎりを食った以降、珈琲専門店で試食用に付いて来たクッキー以外は何も食べていなかったはずだ。かなり腹も減るだろう。
しかし大人達が食えと勧めてくれたので、百瀬は既に大きな豚まんを五つも平らげている。
「ああ、気が利かなくてすまないね。若い人には足りるはずが無いのに。百瀬くん残り全部どうぞ」
「いいんですか?す、すみません。いただきます」
照れ臭そうに断りを入れると、理事長が勧めてくれた他店に比べると『大きいサイズが売り』の豚まんに手を伸ばしている。俺は二個で満腹なんだがな。
和んだ大人達が微笑ましい顔で見守る中、大きな口を開けてかぶりついてる百瀬が俺の冷たい視線に気が付いてモジモジしだした。
やつが変な気を起こさない内にすぐに目を逸らしてお茶を飲んでいると、俺の前で角松が百瀬をじっと見つめていることに気が付いた。夏の晴天の色をした瞳に熱がこもっていて、もはや嫌な予感しかしない。
理事長がわざとらしい咳をして、小さな声で角松に何やら話し始めた。
「角松……相手は男とはいえ未成年だ。うちの生徒に手を出さないでくれよ」
「分かってる。しかしいい男だな」
ーー全部聞こえてるからな!
角松に狙われた百瀬はその熱に全く気が付いてはおらず、無邪気な顔をして頬張っているのは今日六個目になる……そう、豚まんだ。
この鈍さにムカついた俺は、残りの豚まんに大量のカラシを盛っておいた。
俺の行動の一部始終をじっくり見ていた百瀬が目を爛々と輝かせると、小声で斬新なプレイだなと囁いて大喜びだ。悶絶しつつカラシまんと化したものをはぁはぁしながら食べている姿を見た皆が、引きまくっていたのは言うまでもない。
「お父さんに会えて色々話せて良かったな」
「ああ、でも意外とあっさりしてたな。俺、再会したらわんわん泣くと思ってたんだ」
結局急な外泊は認められないということで、理事長の運転する車に学園まで乗せてもらったのだ。
帰り際に絶対また来いよと角松に頭をかき混ぜられて、涙目な親父ともしっかり握手をして帰って来た。
寮についた頃には俺はぐったりしてしまい、ソファーに寝転んでいる。百瀬が入れてくれた紅茶さえ、手に取ることが面倒で、冷めるまで待つからと言い訳をした。
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