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番外編『桜の便り』
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「佐藤!春休みだからって部屋に篭ってないで、ちったあ運動しろよ」
「うっせーな!朝丘は動き過ぎなんだよ、うぜえ。てか恋しい生徒会長様が里帰り中で居ないから、本当は寂しくて一人では過ごしたく無いんだろ?」
中坊からの親友である朝丘と俺には、学年で2トップと称される人気者の彼氏がいる。その彼氏共は揃って春休みに帰省をしており、学園の寮に居残り組の俺たちは、正直ヒマで脳みそが溶けかけていた。
「佐藤こそ、何時も纏わり付いてくる百瀬が居ないと、全然元気が無いじゃん」
「けっ。たまに離れると清々するわ」
そんな強がりを言っている俺だが、しつこい百瀬が居なくなると途端に静まり返るので、多少は寂しくもある。多少だからな!
「じゃじゃーん。ポストから持って来てやったぞ。ありがとちょうだい」
紺色に銀の刺繍風絵柄がプリントされている封筒を手渡ししながら、今日も朝丘は恩着せがましい……いやいや、面倒見が良い。
それにしても「ありがとう」を要求してくる所は痛々しいと思う。
「ありがとな!はい、さっさとくれよ」
素直で無い俺は朝丘の手から封筒を奪うと、速攻で送り主を確認して溜め息を吐いた。俺がメールを既読スルーし続ける事に痺れを切らし、手紙というアイテムを使って別の角度から攻めて来たのだろう。
「百瀬からだ……あいつも実家でヒマヒマ星人やってるんだろうな」
ほんの少しだけ同情してから中身を開けると、俺への重ーーい愛が延々と書かれていたので、途中でそっ閉じしておいた。長ぇんだよ!長文野郎め!
ムスッとしていたら手紙に添えられていたであろう別の小さな紙がひらひらと床に落ちた。
「うわあ、これって百瀬の手作りか?」
元祖百瀬ファンの朝丘が、目をキラキラさせながら素早く拾って寄越して来た。百瀬の器用さにはつくづく感心させられる。
「栞だよ。俺、読書が好きだかんな……しかも桜の押し花入りってなんだ?」
「相変わらず乙女思考だな。百瀬の見た目とのギャップに久々に萌えたわ」
ファンだった朝丘は、百瀬が何をしようと大袈裟に感動する節があり、かなり面倒くさい男だ。
「佐藤、俺にも見せてくれよ」
「やだね。神崎に言いつけるぞ」
百瀬を未だに喧嘩の師匠と崇め奉る朝丘は、度々恋人である生徒会長神崎から拗ねるという可愛い攻撃を受けている。
「それは勘弁してくれ!じゃ、じゃあな」
下手に告げ口をされるのを回避するためなのか、猛スピードで自室に帰って行った。
俺の手元に残った上質の紙を眺めてみる。
白地の紙に桜の花の押し花。
乙女なのか?百瀬よ。
ふと裏側に更なる俺宛のメッセージが書かれている事に気が付いて、仕方なく読んでやることにした。
『佐藤。君と会えなくなって随分と経つが、変わりは無いだろうか。体調を崩さないように栄養のあるものを食べるんだぞ』
お前は俺のおかんかよ。
しかも会えなくなってからまだ五日しか経ってねえし。相変わらず残念具合は健在のようだ。
そして最後の一行を読んだ俺は顔を歪ませげんなりした。
『追伸、俺もこの桜の花のように佐藤に押しつぶされたいです』
うわぁ、相変わらずキモい発想をするよな。やつのブレないM男っぷりに頭を抱えたくなった。
そろそろ一人がつまらなくなって来た俺だったのだが、まだまだ百瀬の帰省が延長される事を心の底から願うことにする。
とは言うものの、結局は甘くなってしまうのも否定はできない。
「ちっ、仕方ねえな……相手にしてやるか」
何だかんだ文句を言いつつも、百瀬との『押し花プレイ』に使用できそうな白いシーツを探してしまう俺なのであった。
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