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番外編『デート』
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「よう百瀬、久しぶりだな」
「君達は?……浜野高校の制服だな」
「忘れんなよ!俺たちゃ拳と拳で会話をした仲だろ」
ぷっ。拳で会話とかいかにも脳筋が言いそうな台詞だな。
さっきからまとわりついて来るのは以前、百瀬に喧嘩を売って見事に返り討ちにあった他校の不良達だ。
「お?なんだよ、そんな貧相なやつ捕まえて、今日は湿気てやがるな」
「しかし目つきの悪いやつだな、そいつ何したんだ?」
ちょっ、まてまて。こいつら完全に俺が何か仕出かして百瀬に連行されている途中だと勘違いしているじゃねえか。
「君たち失礼だな。佐藤に謝れ!」
「おおっ!?百瀬の知り合いなのか?」
そう言ってはるか頭上から俺を見下すように歪んだ顔でニヤつく男は、この界隈でも暴力沙汰の絶えないヤンキーだ。
引きこもりの俺ですら知っているのだから、きっとこの辺では有名なのだろう。
今俺達がぶらついているのは学園からバスに揺られて45分間離れた隣街だ。俺の親父が厄介になっている角松の家がある所でもある。
百瀬がデートに行こうと誘って来たので風紀委員の見廻りがてら、新店舗を冷やかしつつ歩いていた。
そこへ百瀬を見つけた他校のヤンキー達が目元を紅く染めて興奮気味にやって来たかと思えば、いきなり俺に絡んで来て百瀬に叱られたというわけだ。
「ただの知り合いじゃ無い。俺の恋人だ」
「「「……ぇぇえええええ!!!」」」
その場にいたガタイの良い不良達が大声で叫ぶものだから、鼓膜が千切れるかと思った。耳テロはやめてくれ。
「なんだよこんなショボイやつ。俺の方が色々と満足させてやれるぞ?」
「フンッ。貴様などにこの佐藤が劣るわけ無いだろう。失言が過ぎるぞ!」
「だってよぉ、どう見たって顔でも負ける気がしねぇしーーーー」
まだガチャガチャ話しているむさくるしい連中達から距離を取り、傍観することにした俺は久々の遠出でかなり疲れている。
あの不良達は百瀬に気があるのだろう、こちらが恥ずかしくなるようなアピールをし始めた。
身体が痒くなりそうなので座る場所を探していたらちょうどバス停から少し離れたところにベンチを発見し、休憩しようと思いノロノロと近付いた。
「げ、濡れてる。昨日の雨のせいか……くそぅ、座れねえのなら今後ベンチとは名乗るな!」
無機質で派手な青色をした憎いやつ……雨に濡れたベンチにウザさ全開で文句を言っていると、いきなり背後から肘を掴まれた。
咄嗟にその手をとって身体を捻り、曲がるはずのない方向へ相手の腕を押しながら更に体を回転させる。
上手い具合に関節を固め、動きを封じて満足していると、やっと何者か見る余裕が出来た。
「いててててて!離せ!呼んでも振り向かねえから腕を掴んだだけだろうが」
「あー、それは悪かったな」
目の前……正確には俺の目線よりもかなり高い位置から情けない声を出す厳つい男は百瀬に言い寄っていたヤンキー『その一』だった。
「てめえ、支倉さんになんて事すんだよ」
「そうだ、調子に乗るなよ」
ヤンキーその二とその三もやかましい程の雑音を口から出して文句を言っている。それを白けた目で見ながら小鼻をポリポリと掻いて静かになるのを待っていると、俺に撃退されたヤンキー『その一』がずんずんと迫って来た。
「お前面白いやつだな。全然ビビんねえし、気に入った!俺の舎弟にしてやるぜ」
「お断りだ」
即答した俺は首をパキポキ言わせてストレッチ運動をし始めた。ヤバい奴は全てスルーだ。俺のスルースキルを舐めんなよ。
「益々気に入った!お前男もいけるなら俺とも付き合えよ」
三馬鹿トリオのリーダー、ヤンキー『その一』が訳の分からないことを言いだすと同時に固い筋肉に抱かれ、トリオから隠すかのように包み込まれた。百瀬だ。
「佐藤はな、俺のご主人様だぞ!気安く近寄るな!」
いやいやいや、百瀬さんよ。そこは恋人で良くね?
「言っておくが俺たちは将来を誓い合った仲だ。貴様の入り込む隙など無いからな!」
「そう堅いこと言うなって百瀬」
はへ?俺たち何時将来を誓い合ったっけ?
百瀬の思考はぶっ飛んでいるので、やつのレベルに合わせて過去を振り返ってみれば思い当たる節があった。
「あの、百瀬?もしかしてオムツの件はプロポーズだったのか?」
「ふははっ。何を今更……あ、確認したかったのかな?可愛いな佐藤は」
腹が立つほどのイケメンが綺麗な笑顔を振りまきなら、一人で納得して俺を置いてけぼりにしやがった。
まあ、でも今ので分かったよ。
以前ベッドで激しく夜の運動を済ませた後「お前の介護は俺がする、オムツを替えるのは俺が最初で最後だ!」と百瀬が言ってきたことがあり、疲れていた俺は深く考えずに「さんきゅ」と言って受け流した。
それを百瀬の都合の良い頭は、プロポーズを受けたと脳内変換されたのであろう。
まあ、別に良いけどな。
「分かったろ?佐藤だって俺にホの字なんだから邪魔をするな」
ほ、ほ、ホの字?
出たーーっ!百瀬語録!
きっとヤンキーたちの頭にはハテナのマークが浮かんでいるだろう。
「はあ?ホの字って惚てるってことか?」
「当然だろう!だから佐藤様に近付くことは禁ずる。分かったらさっさと帰れ」
「そうなのか。……仕方ねえな、じゃあまたな」
いやいやいや。当然だろうって……さも大多数が「ホの字」を普段使いしているかのように言うのはやめなさい。
「佐藤、あいつらの事は記憶から抹消して良いぞ」
「ははっ、はははっ……」
乾いた笑いで答えると、それを肯定したと受け止めた百瀬は満足そうに頷いている。
もう何でも良いや。
「佐藤、その……頼みが有るんだが」
「……嫌な予感しかしねえ」
「まさか!俺の頼みは至って簡単お手軽なものだぞ?」
はいはい。
こいつのお手軽作業で今まで何度泣きを見てきたか分かったもんじゃない俺は、容易に引き受けるものかと気合を入れて百瀬の願いを聞くことにした。
「さっきのさ、ヤンキーその一に仕掛けた技を、その……俺にもーー」
「やらねーからな!」
皆まで言わせるかよ。
しかし百瀬の中でもあの男はヤンキー『その一』なんだな。なんか不憫になってくるわ。
「駄目か、そうだよな……」
ガッカリした様子で切なげなイケメンの百瀬に通り過ぎる女性達が見惚れている。
お嬢さんがた、こいつは顔面詐欺師ですからね。
ーーはぁ、仕方のねえ奴だな。
「ここでは、だ」
「ふへ?佐藤、今なんて?」
「だから!ここでは駄目だ。……寮に帰ってからならやらなくも無い」
俺の言葉を聞いた途端、幻想世界で薔薇を背負った美形が気持ち悪いほどに悦んでいる。
こんな単純な百瀬が可愛くて仕方がない俺も救いの無い段階まで来ていることは自覚している。
あぁ……好きだ。
俺だってお前が望むことならどんな事でも体を張って良いと思っているんだからな。
「それにしても佐藤があんな技を持ってるなんて知らなかったぜ?」
「お前にあれをしても、それこそ喜ばせるだけだからな。そう簡単にはしてやんねーよ」
「ふふっ楽しみだなぁ。あれってかなり痛そうだったよな!……あ、やばい勃った」
「………」
前言撤回!!!!!
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