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6. 救いを抱えた到達点
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喪失感。
心のど真ん中にあったはずの何かが欠けて、崩れたような。
大切なものが抜け落ちたガラクタ同然な、そんな気分のまま、ずっと家に引きこもっていた。
あれからどうやって帰ってきたのかも覚えていない。
天宮城が送ってくれた気もするし、目覚めた瞬間逃げ出した気もする。
定かでない曖昧な記憶が混濁して、それが唯一の救いで責め苦だった。
もう引っ越して二週間も経つのに、天宮城と出会ったあの始まりの日から全く進まない荷解き。
散らかった部屋の隅で、ぼんやりと。
何をするでもなく、一日が過ぎるのを待っていた。
混乱した頭が、あの日のことを、天宮城のことを。忘れ去ってくれるのを、待っていた。
けれどどんなに考えないように、見ないようにしても狭い部屋では隅に置かれた肌触りの良いシャツが、どうしても目に入ってしまって。
覚えのないそれはいつの間にか俺が着ていたもので、サイズも相当大きくてだぼだぼで、だから。
誰のものかなんて、考えるまでもないのに。
早くそんなもの捨てろと、嫌な記憶ごと燃やしてしまえという誰かが囁き声を、無視して。
膝を抱えては溜息を吐き、目を閉じて震える身体を掻き抱く。
明日から、大学が始まるのに。
どこかへ飛んで行った平穏な日常はまだ、戻ってきてはくれない。
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