アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
8. 走り出す夜空の下で
-
俺は、頭は良くない。
頭脳明晰成績優秀なんて、どこぞの恋愛小説のイケメンのようなオプションはついていない。
その代わり。
人の感情の動きには、滅法鋭い自負がある。
だから。
「ひなたちゃんさ、バカだろ」
再び発進し始めた車のハンドルを固めに握り、前を見据えたまま呟く天宮城の声音が告げる。
不安。怖い。逃げたい。
何に怯えて、何を怖がってるのは分からないけど。
言ってしまえば、意外だった。
「俺の最後の相手って、俺にずっと付きまとう気でいるんだろ?それ、ひなたちゃんに何のメリットがあんの?時間と気力の無駄だよ」
「俺はそうは思わないけど」
「何、それ?案外俺に本気で惚れた?」
「そんなわけないだろ。大嫌いだよ、強姦魔」
冗談めかして、笑う。
余裕そうに口元を緩めて、でも口角は少し引き攣って。
喉が強張っているせいで、声に張りがなくいつもより弱々しい。
普通の人なら気付かないだろう差異に、俺は気付く。
己が身に染み付いた習性と勘が、こいつは今怯えている、強がっていると告げてくる。
「…バカはお前だろ。俺は、できないことは言わない。やるって言ったらやる」
「へぇ…?……それで、俺をどうする気?ひなたちゃんは、一体何を企んでるの?」
「お前を、俺に惚れさせてやる。いつか、俺のことを好きで好きで仕方ないって、俺がいないと死ぬって、言わせてみせる」
「…それはそれは」
期待しないで待ってる、と。
零した言葉の裏に、一筋の涙が流れたことは、まだ。
誰も知らなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
59 / 286