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8. 走り出す夜空の下で
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天宮城が、素性を隠すためではなくただ単に人目を忍ぶ理由があるとしたら。
「…カオが良いってのも大変なんだな」
「それ言うと大抵は怒られるけどね。さて、行こうか」
間近で見たことのある俺から言わせれば、どんなにダサい恰好に変装していても天宮城自身のまとう雰囲気とか、やたらとエロく聞こえる低い声だとか。
そういう隠せない部分で、持って生まれた天賦の才は誤魔化せないというか、直球に言えばどんなことをしようと天宮城は『カッコいい』。
「ホント、嫌みな奴」
「え、何?いきなり?」
車を降りた瞬間から空気に混じる、甘辛くて濃密なすき焼きの香に存分に空腹を煽られながらポツリと落とした独り言はしっかりと本人に届いていたらしい。
決して低くはない俺が見上げるほど高い背も、帽子からちょこちょこ顔を覗かせる金髪も、変装になっていない見るからに高そうな滑らかなシャツも、全部。
見える全てが羨望に値するなんて、神様の依怙贔屓も甚だしい。
「やめちゃえ、そんなもん」
「あっ、おい…!」
平凡まっしぐらな俺は何だかちょっと腹立たしくなって、背伸びしてビン底眼鏡と帽子を奪い取ってやった。
もう店の戸直前、ここで揉めるのはマナー違反だ。
そもそも帽子と眼鏡なんて取るに足らない変装なんだからあってもなくても変わらない。
少しくらい困ればいい、なんて。
愚かしい嫉妬で適当考えた自分がどんなに浅はかだったか、俺は直後に思い知ることとなる。
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