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9. イタズラ心の意趣返し
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窓を開けて冷たい夜風に当たりながら、腹ごなしも兼ねてしばしのドライブ。
天宮城の運転は至極模範的で丁寧で、ブレーキ後停車する時のカクンっとした揺れもほとんどなく、スーっと流れる風が心地よかった。
「ありがと。奢ってくれて」
小さな小さな閉じられた空間に二人並んで詰めた距離と、ゆったりと流れる時間のせいか。
俺の中の素直な部分がひょっこりと微笑んで、満腹の充実した幸せ感にも煽られながらポロリと口にした感謝、だったのに。
「俺、奢ったつもりないけど?」
「え……」
一瞬も目を合わせることなく、天宮城は俺の精一杯の感謝を跳ね除けた。
満ち足りた幸福感が一気に遠退き崩れていく音と、逸りだした自分の心音がドクドクと脈打ち頭の中でガンガンに巡っていく。
あんなにも奢りますよムードを醸しておいて今更何を、という文言の前に頭に浮かぶのは、俺がもさもさと食したものの値段。
俺は伝票もメニューも見ていない、でも。
その見ていないという事実を良いように使って、とんでもないぼったくりをするつもりなんじゃないか。
金持ちの癖に……と悪態を吐きそうになったのも束の間、この俺の想定はまだまだ甘く、天宮城という人間がどんな男か、分かっていなかったと如実に語られた。
「ホント気が合うねぇ、ひなたちゃん?」
「え…な、に……」
いつの間にか駐車していたそこは、いつかの悪夢を彷彿させるような、真っ暗で人気のない寂れた公園。
その暗がりで、助手席に身を乗り出した天宮城は俺に向かって、真っ黒い綺麗な笑顔で囁いた。
「俺も、やるって言ったらやる人間なんだよ」
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