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12. 惹かれ合った呼び声は陽だまりの元へ
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立ち込める真っ白な湯気に溶ける、爽やかな柑橘系の香り。
淡い桃色に染まったお湯はしっとりと肌を撫で、あたたかく、ふわりと優しい香りが全身を包み込んでいく。
「…朔夜の匂いって、これだったんだ…」
貸してもらったお風呂は温泉並みに広く、一面ガラス張りの壁からは47階という最上階ならではの夜景が煌めき、寝静まった街並みが息を潜める様が見下ろせた。
肩まで浸かった湯船の中でゆっくりと腕を動かし、ちゃぷちゃぷとお湯を跳ねさせて遊んでみると、少し遅れて遠くの方で水音が反響する。
周りからも自分からも、朔夜がまとっている甘くてふわっとした香りが広がって、いつになく心地いい。
その朔夜はといえば、しばらくここに居候する俺のための生活雑貨全般を用意してもらうよう頼みにいったところだった。
気のせいではなく肌がしっとりつやつやになっているこの入浴剤は明らかに高級なものだろう。
俺が沈んでいたから気を回してくれたのだろうけれど、そんな高いものまで使ってもらっても一人になるとやはり考えてしまうのは、奏のこと。
切っても切り離せない深い縁で繋がれたと、思っていた。
「――……なんで、だろ…」
『親友』で、『お兄ちゃん』で、『家族』。
そう思っていたのは、俺だけだったのだろうか。
気付かなかった。
気付けなかった。
あんなにも長い間、笑って接してくれていたから。
俺が唯一持っている特技。
他人の嘘は、暴くことができる。
だから本能が告げるんだ。
奏のあの言葉の中に、何一つ、偽りはなかったって。
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