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15. 忘却の果て、緩やかに開く鍵
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気を利かせて、朔夜は講義が始まる時間ギリギリに大学へ送ってくれた。
これなら奏とばったり会っても、話す時間はなくて済む。
そう思って講義室へ入ったはず、なのに。
空いているイスが、ない。
いや、あるにはあるのだけれどそのどれもが知らない誰かの隣で、そのほとんどが荷物置き場のような扱いになってしまっている。
――どうして……この授業、こんなに人いないはずじゃなかったっけ…?
どうしたものかと隈なく教室内を見回していると、ちょうど空いている席が一つ。
奏の、隣に。
「――っ…」
でもそこには座れない。奏と関わらないことは朔夜との約束だからだ。
今はまだ奏と話す訳にはいかなくて、俺は勇気を振り絞って仲良く話しているグループに近づいた。
「あ、の……ここ、空けてもらっていい?」
「え?あー……いや、ごめん。ほかあたって」
「そ、っか……ごめん…」
妙に歯切れの悪い返事。
そして、ほかにいくつ試そうと同じように断られる。
そうして確信した。これは、奏の根回しだと。
どうあっても俺を隣に座らせたいらしいけれど、生憎その手には乗れなくて。
術なく、回れ右をして教室を後にしようとした、直後。
まさに今出ようとした扉が開いて、入ってきたのはこの講義の担当教授だった。
「どこへ行くんだ?もう講義は始まるが。早く席に着きなさい」
「え、いや……俺…」
「ほら、そこの席が空いているから」
何て運が悪いのだろう。
ここで「いえ帰ります」なんて言おうものなら確実に問題児扱い、目を付けられて今後気まずくなるのは目に見えている。
ほかにどうしようもなくなって、まさに八方塞がりな状況まで追い込まれた俺は、奏の隣に座るしかなかった。
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