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雛川がくれた言葉
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家に帰ってからというもの、特に何もすることはなかった。隣が、米崎さんの家、ということにももはや悲しくて吐き気がした。
ちょうど、御飯時になった頃、ピーンポーンとインターホンの音が部屋に響いた。
「あれ、雛川?残りの授業は?」
見ると、雛川である。
「今日は午前授業なんだよ。」
…この時期に午前授業なんて聞いたことないんだけれども。まあそこに引っかかってもどうしようもないので軽くスルー。
雛川を家にあげて自分の部屋に案内して俺は自分用と雛川用とでお茶を用意して自室に向かう。
部屋を開けた時、雛川は勝手に床に座っていて、俺も机に飲み物置いて床に座った。
少しの沈黙。そんな時、最初に口を開いたのは、雛川だった。
「…なぁ、湖太郎。何で今日泣いてたの」
疑問を隠せないというような顔でまっすぐ。
雛川は、俺の顔をまっすぐいつも見る。逃げられないようにするためか、よくわからないけど。
…知ってたのか、と唇が乾燥する。
「……雛川には関係な……、と…御免…。関係なくはないかもしれないけど…言えない」
「じゃあ言い方変えるわ。誰のせいで泣いたの」
雛川が心配している時は、声のトーンがいつもより割と低い。
「…それも、言えない…し、あと、雛川御免。考えたけど、やっぱり雛川とは…付き合えない」
こういうと、雛川が傷つくんじゃないかと思ったけど。けどやっぱり嘘は良くなくて。
俺も、米崎さんに振られて、痛かったけど、振られないで放置だと、前に進めなかったと思うから。まあそれでも、前みたいに、というのは無理があったから……距離を置いたけど。
「湖太郎、好きな人いんの?」
「…いる。」
「その人には、伝えた?」
「…フラれた」
「そっか…。ちゃんと、頑張ったんだな。湖太郎偉いじゃん。」
雛川は優しそうな瞳で俺を見て、よしよしと頭を撫でてきた。思わず涙が頬を伝ってズボンに滴る。なんで…雛川は、俺を褒めてくれているんだろう?だって俺…今、雛川に…。
「ど、して…雛川、頑張ったなんて…え、偉いなんて、言うの…。俺、今雛川ふった…んだよ、…どして優しくするの…、御免…も、御免、雛川…、俺は…フられて、その人に、八つ当たり…、しかできなくて…その人やめてすぐ雛川って思えなくて…、御免…、」
嗚咽で苦しくなる。…俺がふった人に、なぐさめてもらっているって…俺。涙は止めようとしても思うように止まらなくて。
そんな俺を雛川は包んで。トントン、と背中を優しく叩いた。
「昔さ、お前が俺のこと好きだって薄々気づいてて。けど言わなかったじゃんな。…そう考えたら今回は湖太郎頑張ったんだなぁって何だか微笑ましくって。…俺はね、湖太郎。お前には、泣いてもらいたいんじゃなくて、笑っていてほしいんだ。俺は湖太郎の好きな人とは違ってお前を悲しませたりしない。だからさ、俺と付き合うこと、まだ頭の隅に残して置いて。お願い。」
雛川の声は温かかった。そんなにも思ってくれてるんだ、と心が温かくなって。じわわと熱を含んで心を温めてくれる、言葉をくれた。
思わずぎゅう、と雛川に抱きつく…のは、俺がきっとまだ全然雛川よりも子供だから。
「…ん、ありがとう千歳。」
「やっと下の名前で呼んだのな。」
そう笑った千歳の声は、やっぱり温かくて、また涙が出そうになった。
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