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「恋人っていうより、いじめっ子みたいだぞ、お前。めっちゃ嫌がってるし......」
同情する目で見つめてくる先生だが、珈琲を飲む暇があるなら助けてほしい。涙目になっていることに気づき、情けなくなる。手が少し震えているのは俺が怖がっている証明なんだろうか。
高良先輩の顔が近づいてくる。恋人どころか、今日初めて喋ったばかりだ。
「チワワみてぇ。かわいー......」
頬を数回撫でたかと思えば、唇をなぞられる。ふにふにと押したり、かと思えば鼻先を摘んだり。透き通るようなヘーゼルの瞳に見つめられると、全部を見透かされたようで動けなかった。
「キスしていい?」
「え、や」
こいつ何言ってんだと言う前に、唇を先輩のそれで塞がれる。サラサラの髪がおでこにかかり、先輩からは柑橘系の香りがする。息ができなくて、先輩の口から逃げようと体をよじるが、舌も入ってきて体が痺れて動けなかった。体の奥から何かがこみ上げてきた様な感覚に、足先が震える。先輩の腕から伝わる熱が心臓にまで伝わってきて、動機が大きくなる。
「んう......っ、ん、うぁっ」
腰が痺れて、目眩がする。掻き回された口の中は、蕩けるぐらい甘く、熱い。下半身に熱が溜まり始めるのを感じながら、シャツの下から侵入してくる手に大きく体が震える。全ての温度の中で、先輩の手だけが冷たかった。涙で滲む視界の中、何とか先生の方を向き、助けてと視線を送ると、呆然としていた先生が俺を先輩から取り上げた。
「はい、ストップ、この子泣いてんじゃん、下手くそ」
先輩から見えないように隠され、静かに床に下ろされると、先生は震える俺に白衣をかけてくれた。腰が抜けて動けなかったが、辛うじて先生の背中の後ろに隠れる。背中を触るのは嫌だったから少し距離を取ったけど。
「今日はもう授業行け。この子は後で返すから」
「下手くそじゃないし」と文句を言いながらも、しゃくり声をあげる俺を気にしているようで、そのまま素直に扉の方に歩く。
「唯ちゃん、その子に手ぇ出さないでね」
それだけ言い残して高良先輩は保健室を出ていった。やっと開放されたと安堵のため息をつくが、できればもう会いたくない。
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