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ただ好きなだけだった。
求めてるものはたったひとつで。
それは手を伸ばせば届くものだと思っていた。
ー永遠なんて無いのにね。
ひらひらと舞う桜の花びらを眺めながら、川沿いを歩く。
隣を歩くはずだった彼は、今は居ない。
どこで歯車がズレたのか...。
その声も、腕の温かさも、優しい笑顔も...忘れることなんてできないのに。
「別れた方がいいと思う」
突然の別れの言葉。
信じられなくて、何も言わずに部屋を飛び出した。
どうしてこうなったのか、考えてみたけど原因が思い浮かばない。
俺、何かしたかな?
確かに最近すれ違ってばかりで、ゆっくり二人で居られる時間は無かった。
お互い仕事だし、それも大切な時間だって思う。
会えなくて、寂しくて、涙が出る時もあったけど、名瀬には見せないようにしてたつもり。
つもり...だけで、名瀬は気づいてたのかな?
だから嫌になったのかも。
立ち止り考えていたが、肌寒くなって震える。
季節は春だが、まだ風は冷たい。
上着も持たずに飛び出した事を後悔した。
とりあえず帰ろうと来た道を振り返る。
「風邪ひくよ」
そこには心配顔した名瀬が、上着を持って立って居た。
別れ話をした相手なのに、なんで優しくするのか。
でも、そこが名瀬らしくて泣けてきた。
道端で涙を流す俺の顔を慌てて上着で隠して、部屋へ帰る。
続きの話なんて聞きたくないけど、聞かなきゃいけない雰囲気。
「急に飛び出すからびっくりした。最後まで話聞いてよね」
呆れたように話す名瀬。
最後まで聞きたくないから逃げたのに。
「逃げ出したのが洸介の気持ちって思っていい?」
「...どういう、こと?」
「別れた方がいいって聞いて逃げるってことは、別れなくないってことでしょ?」
「当たり前やろ!急に別れるやなんて言われても、俺はいいよ何て言われへん」
なんで別れたいの?いつから思ってたの?...そんな質問を矢継ぎ早にする俺に、名瀬は笑う。
「洸ちゃん、待って。まず別れたいなんて思ってないから」
「...ぇ、だって、さっき!」
聞き間違いでは無かった。
はっきりと「別れた方がいい」って言った。
「うん。確かに言ったけど、続きがあったわけよ。別れた方がいいと思う...って考えたけど、やっぱり俺には無理って...」
「なんやねん、それ...」
「お互い仕事忙しいし、でもそれで寂しくて泣いたりもしてるだろ」
やっぱりバレてた...。
「洸ちゃんの気持ち考えてたら、俺とは付き合わない方がいいのかなって...でも俺は洸ちゃんを離したくない。だけどそんな我儘に付き合わせて洸ちゃん泣かすのは違う気がする...とか、そんな事色々考えた」
「......」
「で、結果俺は別れたくないけど、洸ちゃんはどう思うって聞こうと思って話し始めたら、飛び出してくんだもんね」
そのなの...ずるい。
「俺は...お互い仕事も大事やねんから、その時間は縛らへん方がええと思ってる。やから、寂しくても我慢できるし、会えた時の時間を大切にしたいって思う」
「洸ちゃん...」
「別れるなんて言われても、絶対別れへんからな!俺には名瀬以外見えへんねん。名瀬以外の人となんて考えられへん」
そう言った瞬間の名瀬の顔。
一生忘れられないかもしれない。
嬉しそうに涙目で笑う名瀬を、抱きしめた。
「ありがとう、洸ちゃん」
求めてるものはお互い一緒で、手探りで探すうちに見失うこともあるのかもしれない。
でもきっと俺たちは、こうやってすれ違いながらもまた手を繋げる。
*****
勘違いで別れ話になったお話。
すれ違っても、お互いを想う気持ちがあれば、元に戻ることはできる。
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