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無制限の恋
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愛することに誰が制限をかけたのだろう?
年齢とか、立場とか、身分とか...。
そんな風に思う俺の制限は「性別」である。
世間的にはゲイとかバイって呼ばれるだろうこの恋心は、相手が男ってだけで絶対秘密のものとなる。
ただ名瀬が好きなだけなのに。
その記事の存在を知ったのは、事務所に呼び出されてからだった。
名瀬と二人で呼び出されるのなんて珍しい...なんて思いながら会議室のドアを開けると、部屋の中はかなり思い空気に包まれてる。
「これは、どういうことかな?」
重役と言われる面々に、俺たちのマネージャーが縮こまりながら答える。
「どういう、こと...とは?」
バンっと大きな音を立て、その雑誌が机の上に置かれた。
そこに写っていたのは、キスしそうな距離で顔を近付けているカップルの写真。
そしてデカデカと書かれた文字には『人気アイドル二人の禁断の恋?!』『友情を越えた関係!!』と書かれていた。
名瀬と二人目を合わせる。
一瞬にしてどういう対処すべきかを考えた。
決定的な証拠が無い限り知らぬ存ぜぬで通すしかない。
俺たちは友達だ。
そう言い聞かせて...。
写真に関してははっきりと顔は見えないが、その内容は俺たちが付き合ってるかもしれないと書かれてある。
「君たちは、その、そういう関係なのかね?」
その言葉に名瀬が笑う。
「本気で言ってます?確かに親友だから仲良いし、同じマンションだから部屋に何度も行ってますけど、あくまでも友達ですよ」
「しかし!この写真は」
「あ~...それ、風で目にゴミが入ってコンタクトが痛かったから名瀬に見てもらってただけです」
まさか写真を撮られてるなんて思いもしなかったが、本当にそういう場面だった。
家以外でキスする時は十分に周りに気をつけている。
ましてや、どこかで見られる可能性がある外でなんて、絶対に有り得ない。
「それにしても君たちは仲が良すぎる。コンサートでキスしたりしてるようじゃないか?」
これには名瀬は苦笑するしかなかった。
その事実だけは消せない。
記事でもそれを取り上げている。
他にはラブホテルに一緒に行った...とか。
確かに若い頃に行ってるが、それは央も一緒だったし色んな場所で言ってるから、知ってる人は多いだろう。
「それは...ノリで?歌ってたらテンション上がってつい」
「ほら、やっぱりそういう関係なんだろ!」
なんでそうなるのか...ここに居る連中の頭の中はどうなってる?
「...あほらしい」
「洸介さん!!」
俺の呟きにマネージャーが焦る。
「そやけど、こんなんで呼び出されて...もうすぐ舞台なんやで?稽古の方が大事や」
マネージャーに言ってるが、本音を言うとコイツらに直接言いたい!
相手が異性なら騒ぐのも理解するが、世間に親友と知れてる名瀬相手に、なぜこんなにも騒ぐんだ?
「佐久本くん、その態度はなんだね。君たちの普段の行いがこんな結果になってるんじゃないか?」
「仕事に関しての説教なら喜んで受けますけど、プライベートの友人関係にまで口出されたく無いです」
俺が相手が誰であろうと意見をはっきり言うタイプというのは、事務所には知られている事だ。
ここは俺が盾になる方がいいだろう。
「すみません、洸介が言う通り舞台前でピリピリしてるんですよ」
マネージャーがフォロー入れるが、そんなもの必要無い。
こんな根も葉もない噂の記事読んで本気にする事務所がおかしい。
「とにかく、俺と名瀬はただの友達です。それ以上もそれ以下もありません。他に何か?」
「それじゃ、世間は納得しないんだよ」
「では、どうすればいいと?」
事務所が出してきた提案はとんでもないものだった。
ほとぼりが冷めるまで接見禁止。
プライベートだけで無く、仕事場でも必要最低限の会話、勿論プライベートで会うのは問題外。
しばらくの間どちらかは事務所の借りた部屋で過ごすようにと言われる。
「納得出来へん!!」
「君たちの意思は関係ないんだよ。記者が張ってるんだ、慎重にいくべきだ」
「マンションには入れないようになってます!家を出るまでしなくても」
「もう決まった事だ。これは事務所の問題でもあるんだよ」
事務所の決定が揺るがないのを知ってる。
そうやって事務所や所属タレントを守ってきたことも。
「恋人じゃないんだろ?ただの友達なら、数ヶ月会えなくても支障をきたすことは無いはずだ」
恋人じゃない?
ー恋人なんだよ!逢わないなんて考えられないくらいに好きなんだよ!!
だけど、そんな事言えるはずも無く、渋々了承するしかなかった。
会議室から出て、ドアを力いっぱい叩く。
「まぁまぁ、しばらくの間だけですから。部長が言う通り恋人じゃないんだし、我慢してくださいよ」
そんなの納得なんて出来ない。
世間一般的に同性愛なんて数少ないものだろ。
なんでこんな記事で振り回されなきゃいけなんいんだ。
憤慨してる俺を見守ってた名瀬が、ポンッと頭に手を置いた。
「すぐに逢えるようになるよ」
「智希...その行動がダメなんだって」
呆れたような名瀬のマネージャー。
「でも俺こんな性格だし、それは変えられないよ」
「そうだけど、今は自重してくれ」
「面倒臭いなぁ。まぁいいや。部屋どうすんの?」
それに関してはマネージャー同士で話をしてたようで、舞台で部屋を開けるようになる俺がホテルに寝泊まりする事になっていた。
舞台まで後3ヶ月...本番合わせたら5ヶ月も名瀬に逢えないってこと?
冗談じゃない。
「いいですか?本当に少しでも会えばまたニュースになりますからね!絶対に約束は守ってくださいよ」
特に洸介さんって念を押された。
たまに突拍子もない事をしでかすから心臓がいくらあっても足りません!と溜息をつかれる。
「俺、そんなに我儘言ってる?」
「我儘とか、そういうのじゃなくて...」
なんて言っていいのか、マネージャーが迷ってると名瀬が思い付いたように発言した。
「じゃじゃ馬?」
「あ、それです!普段は大人しいんですけど、なんか急に制御が効かなくなるんですよね。さっきも、こっちはヒヤヒヤしてたんですから」
大笑いの名瀬。
じゃじゃ馬ってどういうことだよ!
そんなわけで俺たちの恋にまさかの障害ができた。
辛うじて出来るのは電話での連絡のみ。
こんなに近くに居るのに、なんで遠恋みたいに逢えないもどかしさを感じないといけないんだろう。
仕事で逢えないのとは違う、制限されてるからこその辛さがある。
ホテルの部屋で大きく溜息。
名瀬と逢えなくなって1週間が経っている。
確かに俺たちの周りには雑誌の記者がウロウロしていた。
直接インタビューされることは無いのは、事務所の圧力がかかってるのかもしれない。
それでも鬱陶しいのには変わりないが...。
たかが1週間、されど1週間...。
淋しい気持ちが募る。
不貞腐れた気分のままベッドでゴロゴロしてたら、名瀬から着信。
ビデオ電話に切り替えて話をした。
「何してたの?」
「何もすること無いし、ゴロゴロしとったで」
「そうなんだ」
笑う名瀬。
こんな電話越しなんかじゃなくて、側で見たいよ...。
「一人は、淋しい」
「洸ちゃん...」
困らせるつもりは無かったけど、つい気持ちが漏れてしまった。
「ごめん、今の無し」
「どうして?淋しいなら淋しいって言ってくれた方が、俺は嬉しいよ」
「名瀬困ってるし」
「ん~...困るって言うか...」
頭を掻きながら言い淀む。
「素直な洸ちゃんが可愛すぎて、今すぐそこに駆けつけそうになるから困る...みたいな?」
名瀬の一言に顔が赤くなるのが分かった。
「また、そんな顔して...。やっぱり逢いたくなるから今日はもうおしまい。明日も仕事頑張ってね?おやすみ」
「おやすみ...」
短い電話。
それでも名瀬を感じることができて気分は浮上する。
名瀬も逢いたいって思ってくれてる事が嬉しい。
雑誌発売から一月が経った。
大物俳優の浮気発覚で、俺たちの周りに居た記者たちは一気に居なくなる。
ただ本気でスクープを狙ってる記者もいて、まだ予断は許されない状態だった。
仕事の方は順調である。
舞台の構成や演出も決まってきて、稽古も本格的になっている。
きっと普通に暮らしていても名瀬に逢える時間は限られていただろう。
それでも仕事の合間に逢瀬が出来るのは幸せな時間だった。
名瀬に逢うことで、色んな気持ちがリセットされてた。
なのに今は、一瞬でも逢えない。
事務所でもテレビ局でも、タイミングをずらされてるのかすれ違う事すらない。
本当、うちの事務所はやると決めたら徹底的にやる。
次の仕事まで少し時間があり、事務所で時間を潰しているとリーダーが顔出した。
「洸介ここにおったや?」
「木島くん、どうしたんですか」
「ちょっと用事があって、洸介借りてもいい?」
ニコニコ顔のリーダーにマネージャーが断ることなんてできるはずもなく、1時間で帰ってくるようにと言われて送り出してくれた。
「木島くんが呼び出すなんて珍しいですね」
「うちの末っ子が元気無いから、サプライズしようと思って」
末っ子とは名瀬のことだ。
サプライズってもしかして...?
「顔に出すぎやで?」
「えっ?」
「まぁ一月も逢えなかったらそうなるか」
今名瀬が事務所に居るのを知ってるのは、リーダーだけらしい。
思ってた通り、マネージャーたちが同じ時間にならないようにスケジュールを立ててるようだ。
今日の名瀬の入りは5時間後の予定。
だけど俺が居るのを知ったリーダーが、急遽呼び出したそう。
仮眠取りたいからって人払いしてたリーダーの部屋の中には、逢いたかった人が居た。
「名瀬...」
「洸ちゃん!」
見つめ合う俺たちを笑顔で見守ってる。
「恋ってええねぇ。リミットは1時間やから、それまでご自由に」
リーダーが出て行ったドアを見て笑う。
「ほんま、メンバーに愛されてるよな」
「有難いことです」
名瀬も笑って、俺を引き寄せる。
「逢いたかった...」
「俺も、洸ちゃんに触れたかった!」
そう言いながら額にキス。
そのまま畳に押し倒された。
瞼に、頬に、首筋に口付けされる。
そして唇にキス。
啄むような口付けから深い口付けへと、何度も...何度も。
「ん...ふ、ぁ...名...瀬」
きっと蕩けるような顔をしてるのだろう。
力が入らなくなり、名瀬に擦り寄る。
「そんな顔、俺以外に見せてない?」
「っ!当たり前やろ」
浮気なんてするはずない!
名瀬以外となんて考えられないよ。
「洸ちゃんの全てが、俺のものだから」
珍しく独占欲丸出しになっている。
それだけ淋しかったのかな?
嬉しくて、同じ言葉を返す。
「俺の全部が名瀬のものだよ。名瀬の好きにして?」
「...っ!止まらなくなるから、煽らないでよ」
最後までするには時間が足らない。
それに、いつもなら事務所で何て考えられない。
それでも...
「ちょっとだけなら、ええやろ?」
その言葉に名瀬の手が動き出す。
服の中に忍び込み、胸の突起を撫でる。
それだけじゃ足らず、服を捲りあげ舌で愛撫する。
「ぁ...んっ!」
声が出そうになり、口を押さえる。
それを見て、近くにあったタオルで口を塞がれた。
「ヤバい、強姦してるみたい...」
欲情する名瀬の頭を叩く。
言いたいことはあるが、口を塞がれてるから何も言えない。
視線で名瀬に抗議した。
「分かってるって、ちょっとだけ...でしょ」
「ん...っ!」
下腹部のソレを取り出し、直接触る。
久しぶりの行為に期待してソレはもう限界まで勃ち上がっていた。
「洸ちゃんのエッチ」
耳元で囁かれ、ソレを触りながら耳をクチュクチュと侵される。
快感が身体中を巡った。
「んっ、んん~!!」
目の前が真っ白になる。
「力、入れてて」
いつの間にか名瀬のモノも出されて、俺の股で挟むようにされてた。
素股ってやつ?
言われるまま、股にギュッと力を入れる。
「うん、上手...」
名瀬が動き出す。
その動きに合わせて、俺のも擦られている。
「んっんっ!」
「気持ち、いい?」
問いかけに頷いて答える。
名瀬の動きが早くなった。
絶頂まで、もう少し。
「ぁ...、洸ちゃんっ!」
「んん~...っっ!」
二人で一緒に白濁を出した。
出す瞬間に名瀬がタオルで押さえてくれたから、服は汚れずにすんだ。
口を覆っていたタオルが外される。
荒い息を整え、時計を見ると約束の時間まで後少しだった。
「時間...」
気だるく言うと、名瀬が慌ててタオルで身体を綺麗にしてくれる。
情事後の独特な空気を隠す為に窓を開けた。
それでも...多分バレる。
「もう行くね」
もうすぐ帰ってくるだろう、リーダーと顔を合わせたくなくて、急いでその場を後にした。
言い訳は名瀬にお任せします...。
禁止されてる中での情事は、思ってた以上に興奮して、いつも以上に感じてしまった。
その快感にハマりそうで怖い...。
一度トイレに寄り、顔を洗ってから服を整える。
顔がニヤけるのはどうにも出来ないが...どうにか部屋を出た時の状態となった。
深呼吸してマネージャーの居る部屋へと戻った。
珍しく機嫌のいい俺の態度を訝しがるマネージャーを誤魔化して、一日の仕事を終える。
ホテルに帰るとシャワーを浴びてからベッドへとダイブした。
ほんの1時間逢えただけ。
ただそれだけなのに、こんなにも幸せを感じる。
自然と笑顔になる。
しばらくすると電話が鳴った。
相手は勿論名瀬だ。
「時間、大丈夫だった?」
「うん。そっちは?」
「あ~...ちょっと怒られた」
やっぱり...流石のリーダーも怒るよね。
「そういう気分になるのはしょうが無いけど、洸ちゃんの負担になるような事はするなって」
「は?」
「最後までしてないって言ったら、褒められたけどね」
それは...行為そのものを怒ったわけじゃなくて、俺の身体の心配してくれたってこと?
「ほんま、Toyって名瀬に甘い...」
「ねぇ~?頼りになる兄貴たちだよ」
「なぁ、まさかそういう話までみんなにしてへんよな?」
名瀬との行為が筒抜けになってないか心配になって問う。
「さすがに話さないよ」
笑って答えた。
よかった...でも名瀬ならやりかねない。
「今後も報告禁止やで?」
「分かってるって」
心配症だなぁ...って名瀬。
交際がバレてるってだけでも恥ずかしいのに、それ以上の事まで知られたら本当に恥ずかしすぎて会えなくなる。
他愛のない話をして電話をきる。
今日は淋しくなんかなかった。
名瀬に逢えた余韻が残ってたのは、1週間くらいだった。
また淋しい日々が続き、イライラしたり落ち込んだりと情緒不安定。
自分が色んなことに集中出来ていない事は分かってた。
だからこそ舞台の稽古前には、いつも以上に自分に言い聞かせてた。
ー今からは大事な時間だって...。
なのに、一瞬の油断が事故をよぶ。
舞台の演出にある殺陣の練習中に順番を間違えてしまい、思いっきり刀が身体へと当たった。
お互い本気でやってるからこそ、力加減なんてしてない。
肩からお腹にかけて強い衝撃が走つたかと思うと、そのまま後ろに飛ばされた。
思いがけない衝撃に身体が反応出来ずに、受け身を取れない状態で頭から倒れる。
ガツンっと大きな音を立てて倒れ込んだまま、起き上がる事ができない。
「洸介さん!!」
周囲のざわめきも、どこか遠くから聞こえる。
ブラックアウト。
そこから意識が無くなった。
目を開ければ、真っ白な天井が見える。
病院に居るようだ。
身体を動かそうとすると、全身に痛みが走る。
「動かないでください!骨折はしてませんけど、打撲で全治3週間だそうです」
慌てたような声を出してるのはマネージャーだ。
全治3週間...。
「後頭部も強く打ってますから、そちらは明日以降精密検査になります」
精密検査の結果次第では完治までの日数が増える可能性もあるという。
舞台本番まで後1ヶ月とちょっと。
やってしまったという後悔しかない。
「舞台は?!」
「今は何とも...明日の結果次第です」
座長の俺が居ないと成り立たない舞台。
これまで十分に気を付けてきた。
チケットもとっくに販売されていて、完売している。
俺のせいで中止になんてしたくない。
バタバタと廊下で走る音が聞こえ、病室の扉が大きな音を立てて開けられた。
「洸ちゃん!!」
「智希!」
名瀬と共に、それを追いかけて来ただろう名瀬のマネージャーが現れた。
俺のマネージャーが落胆したような表情を見せる。
「...止められなかった」
「...でしょうね」
抱き締めたい衝動を堪えてるのが分かる。
一応マネージャーの目を気にしてるようだ。
俺が手を伸ばすと強く握りしめてくれた。
「心配した...」
「ごめん」
名瀬の手の温もりに、色んな思いが弾けて涙が溢れ出る。
大切な舞台を俺自身がダメにしてしまうかもしれない...不甲斐ない自分が嫌になる。
泣いてるの見られたくないなって思ってたら、頭から布団をかけてくれた。
「名瀬さん?」
名瀬の行動を不思議に思うマネージャー。
涙はバレてないようだ。
「洸ちゃん、精神的に参ってるみたい。少し、二人にしてもらえる?」
名瀬の提案にマネージャーは速攻首を振る。
「智希、それは無理だよ」
「じゃあ、洸ちゃんが潰れちゃっていいって?」
「そういう、事じゃないだろ」
「そういう事だよ!気付いてないわけ?このままだと洸ちゃん潰れちゃうよ」
荒らげた声に二人が黙る。
張り詰めた空気の中穏やかな声が響いた。
「名瀬、言い過ぎや。まぁでも今回は事務所が悪いと思うけど?」
「木島さん!」
突然現れたリーダーに驚くマネージャーたち。
「幼い頃から苦楽を共にしてお互い励まし合いながら頑張ってきたんや、それを強制的に奪ったら精神的な拠り所が無くなって、こうなる事は目に見えてたで?」
あくまでも親友である事を前提に、助け合ってきたんだって...それが俺たちに必要な事だって伝えてくれてる。
「恋人とかそんなんやないねん。君らにだって心の拠り所あるやろ?疲れた時とか、立ち止まりそうになった時に頼るもの」
「そう...ですが...」
「タレントをスキャンダルから守りたいのは分かるけど、そのせいで本人が潰れたら意味ないんやないの?」
リーダーの言葉にマネージャーたちは顔を見合わせる。
接見禁止から俺たちが情緒不安定になってるのは、マネージャーが一番分かってただろう。
「...分かりました。確かに仕事に集中出来てなかったと思いますし、そこからこんな事故に発展したのであれば、完全に事務所側の判断ミスだと思います」
「智希もどんどん元気無くなってたしな」
「マンションには帰れるようにしますので、今後は週間して、怪我の無いようにお願いしますよ」
「外出時の接見禁止は続きますから、そこは我慢するように」
リーダーの説得にマネージャーが折れてくれた。
やっぱりリーダー凄い。
思ってもみなかった言葉に俺たちは信じられなくて顔を見合わせた。
嬉しくて、すぐにでもキスしたかったけど我慢した。
「木島くん、ありがとうございます」
「さすが、リーダー!」
「いやぁ、俺も大切な後輩潰されちゃたまらんからね」
とぼけたように言うが、本当に頼りになる存在だ。
困った時に手を差し伸べてくれる。
「一件落着。ほんなら僕らは仕事に戻ります。洸介はゆっくり休んで」
名瀬を連れて病室を出ていった。
「気持ち分かってあげられなくてすみませんでした。子どもの頃から特殊な環境をずっと一緒に過ごしてきてるんですもんね。親友であり、ライバルであり、家族みたいなものであるんですよね」
「あ~...うん、まあ、そうやな」
「俺がその辺理解してれば、もっと事務所に強く言えたのに...」
マネージャーは反省してるようだ。
リーダーの熱弁がこんなにも上手くいくなんて...。
騙してるようで少し心が痛いが、名瀬との甘い時間を取り戻せるなら何でもいいや。
精密検査の結果は問題無し。
身体の痛みは数日で無くなるが、2週間は日常生活以外の動きはしないようにと言われた。
舞台では痛み止めの注射とテーピングが必須。
それでも無理をすると腕が上がらなくなるからと忠告される。
残念だか、開演日を1週間延期する事になった。
それでも中止じゃなくて良かったと思う。
念の為、痛みが無くなってからの退院となり、マンションに戻れたのは事故から5日後だった。
久しぶりのわが家にほっとする。
所々に名瀬が居た痕跡を感じるのは、俺の部屋にきてたから?
寝室に残る名瀬の匂いに包まれて、眠った。
「洸ちゃん...」
頭を撫でられて目が覚める。
夕方になり仕事終わりの名瀬が来ていた。
「名瀬...」
呼ぶと抱き締められて、口付けされる。
その優しいキスが心地よい。
繋がることは出来ないが、名瀬が側に居るってだけで心が満たされる。
「包帯、痛々しいね」
「大袈裟に巻いとんのや。無理に動かさへんかったら痛みは無いで」
「なら、安心」
「でも、エッチなことはできへんよ?力入れたりしたら痛いねん」
名瀬が暴走する前に忠告をすると、苦笑いしてる。
「獣じゃないんだから、我慢できるって。エッチしなくても洸ちゃんが側にいるだけで幸せだから」
名瀬も俺と一緒の気持ちだったようだ。
夕食を済ませて、ベッドでまったりと過ごす。
それだけでいい。
「とも、もう離れないよ」
「もう絶対に離さないから」
キスをして、幸せな気分の中眠りにつく。
逢えない期間が俺たちの絆を深めてくれた。
そう思うと接見禁止も悪くなかったかもしれない。
でも、もう二度そんな状態になりたくはないけど。
*****
久しぶりの短編です。
でも...気付けばラブラブエッチほぼ無し?
そんな日もあるよね(笑)
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