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after 君は泣いて強くなる
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クチュクチュと部屋に水音が響いてる。
舌を絡ませ、歯列をなぞられるとゾクゾクとした感覚が身体を巡った。
それだけでギブアップしたくなるくらい気持ちよくて...完全に身体から力が抜けている。
「好きだよ」
「洸ちゃんだけ」
「洸ちゃんしか要らない」
色んな言葉で俺を求めてくれるけど、それを嬉しく思いながらもどこか信じられなくて...。
名瀬が女優と食事をしてるのを見ただけて、捨てられるんじゃないかって不安になった。
元気が無い俺を心配して、家に来てくれた央曰く「なっちゃんはお前の事以外見えてない」らしいけど、不安は消えない。
こうして仲直りして名瀬に抱かれてるっていうのに、その不安は微かに...ただ確実に心の隅にある。
「泣かないで...」
知らずに出てきた涙は、快感からってだけじゃない。
だから名瀬は、壊れ物を扱うように接するのだろう。
俺の不安がどうやったら取り除けるか、手探りで探してる。
涙が吸い取られ、優しい愛撫が続けられた。
「好きだよ、洸ちゃん。どうしたら、不安じゃなくなる?」
「...ぁ...んんっ」
大切に...大切に...。
その気持ちは痛いほど伝わってくる。
全身に口付けされて、身体はその度に震えた。
気持ち、いい。
「そばに居るよ...。離れたくない」
「...っあぁぁ...ゃっ...ん!」
ずっと外に居たってのは本当だったようだ。
少し冷たい指がウシロに侵入してきた。
しかし中の熱と共に、その指はすぐに暖かくなっていく。
ゆっくり時間をかけて解されて、そのうち指だけじゃ足らなくなった。
「とも...ぁ...も...お願、い」
懇願する姿を見て自嘲気味に笑う。
「身体だけなら、いくらでも満足させてあげられるのにな」
俺を気遣うように、中へと侵入してきた。
すんなりと奥まで入って、ゆっくりと抽送する。
快感に支配されて、他の事は考えられなくなっていた。
そこに残る不安さえも、今は消えてしまってる。
とにかく名瀬を感じたくて...手を伸ばす。
絡み合う指、手の甲にキスされて、その後強く抱き締められた。
「あっ...ん、ぁぁ!」
今度は快感から涙が止まらなくなる。
名瀬に愛されてる実感。
熱に浮かされたような感覚に陥る。
...堕ちていく。
寝返りをしようとして、出来なくて目が覚めた。
その理由は単純で、名瀬に強く抱き締められてたから。
冬だというのに暑いこの部屋は、24時間空調が壊れたのでは無いかと疑うほどだが、これが仕様らしい。
起こさないように、そっと腕から抜け出した。
側に置かれてたバスローブを羽織り、キッチンへ向かう。
冷蔵庫にある冷たい水を一口飲んだ。
そのまま夜風に当たりたくてベランダへと出る。
冷たい風が気持ちいい。
街の灯りがキラキラと輝いている。
「どうしたら不安じゃなくなる...か」
情事の最中に名瀬が発した言葉。
そう言った名瀬の方が不安で仕方ないって顔してた。
どうしたらいいかが分かれば、あんなに悲しくなる事なんて無い。
それでも、俺のせいで名瀬にあんな顔をさせてしまった事を後悔する。
不安になるのは、俺が名瀬の事好きだから。
愛されてる自覚は...ある。
溺れるくらいの愛情を貰ってると思う。
それなのに、名瀬が誰かと...特に女性と...話すとこ見るだけで不安になる。
本当に俺でいいのか...なんて、当たり前過ぎる疑問。
この恋愛に「未来」は無いから、遠い「未来」を考えるといつかは別れる時が来るんだろう。
それがいつなのかは分からない。
「離れられるやろうか...」
「誰と?」
独りごちた言葉に返答があって驚いた。
「身体、冷えてるよ」
そう言ってギュッと抱き締める。
促されてリビングへと入った。
確かに、身体は冷え切っているようだ。
背後から抱っこされるような形でソファーに座り、名瀬の腕の暖かさにホッとしてる。
「今度は、何に不安を感じてる?」
「ぇ...」
「泣きそうな顔、してたから」
冷えた身体をさすって、暖めようとしている。
それよりも早く暖まる方法を知ってるから、向き合うようにして口付けた。
「洸ちゃん...?」
勝手に「未来」を想像して、いつ来るか分からない別れを思い悲しくなってた俺にはソレが一番安らぐ方法で...。
だけど理由を知らない名瀬は、積極的な俺に違和感を感じてる。
「何を考えてた?」
「...言いたく、ない」
首を振るが、名瀬は黙ることを許してくれなかった。
「...なんでも言って?そうじゃないと、俺が不安になる。俺じゃ、洸ちゃんのこと満足させられない?...俺には、何が足りない?」
普段の名瀬からは考えられないくらいの悲痛な表情と声。
その姿を見て、胸が締め付けられるように痛む。
「名瀬は...悪くないんや」
「でも、洸ちゃんは不安になってる。それは俺のせいだろ」
「違う!俺が勝手に不安になってるだけなんや...。名瀬が悪いわけやない。名瀬は十分俺を見てくれてる」
「じゃあ...どうしたら、泣かなくなる?」
「それは...」
次の言葉が出てこない。
俺の不安が伝染して、名瀬まで不安になってる。
「洸ちゃんの涙を見るの、辛いんだ。女と会ってた俺が絶対的に悪いのは分かってる。でも、洸ちゃんが不安になってるのはそれだけじゃないだろ」
「確かに、初めは名瀬が俺に内緒で女性と会ってることが不安だった。それに...嘘もついてたし」
観念して、心の内を話す決意をした。
この気持ちを話したら、もしかすると名瀬は呆れるかもしれない。
もっと悲しむかもしれない。
でも...今話さないと、きっと俺たちは前には進めないのだろう。
未来が無い俺たちの、前ってどこなんだって思うけど。
「でも...よく考えたら、その方が自然で...俺との付き合いの方が不自然なんだって思い始めて...」
「うん...」
名瀬はとりあえず否定せずに聞いてくれるようだ。
「名瀬もいつかは、俺と別れて...結婚して子どもつくって...そんな未来しか思い浮かばなくて...」
「洸ちゃん...」
「俺は...名瀬の事好きだから...名瀬に幸せになってもらいたい。だから、きっと...そのいつかが来た時には笑ってサヨナラを言えたらいいなって思ってる。だけど、まだ今は笑顔でなんかいれなくて...だから、女性の影を見ると不安で...」
自分の中でも考えがまとまってないから、話してて何を言ってるのか分からなくなってきた。
「洸ちゃんは、俺が他の誰かを好きになると思ってんだ?」
傷ついたような顔。
やっぱり名瀬を悲しませてる。
「いつか...な。今は俺のこと好きかもしれないけど、未来を考えた時に俺じゃ何も与えられないから」
「未来?」
「そや、未来。奥さんが居て、子どもが居て...楽しくて明るい、そんな未来」
その未来は、きっと普通に過ごしてたら手に入る未来。
そして、俺とでは絶対に手に入らない。
そんな『普通』だと当たり前の未来を名瀬には手にして欲しい。
「無理、だよ」
名瀬から予想外の答え。
「無理...って...」
「言っとくけど、半端な気持ちで洸ちゃんと付き合ってるんじゃないから。未来がどうだ...とか、もうとっくに俺は心を決めてる。俺にとっての明るい未来は、洸ちゃんと笑って過ごす未来だよ」
それは本当に予想外で...俺は名瀬の「好き」が未来まで続くとは思って無かった。
「でも...」
「不安なのは未来の事だけ?」
「そう、やけど...」
「なら、俺は絶対に洸ちゃんを手放す気は無いから。嫌って言われても、離れてなんかやらない」
今度は名瀬からのキス。
離さないよって言葉通りに、強く抱き締められる。
その言葉を疑うのは簡単だ。
信じることの方が何倍も難しい。
だけど、俺は信じたい。
絶対と言った名瀬の本気を、疑うのは間違ってると思うから。
背中に手を回すと、名瀬はホッとしたように力を抜いた。
「俺...信じるよ。絶対に離れないって、名瀬の言葉」
「うん...」
「もう名瀬の気持ち、疑わない」
「うん...ありがとう」
また嫉妬して泣いちゃう時もあるかもしれない。
だけど、今回と違うのは「名瀬が離れることは無い」って分かってるという事。
それを信じる事が出来ていれば、気持ちは全く違う。
寝室に戻り、もう一度身体を重ねる。
不安が無くなった分、精神的にも素直に感じることができた。
「また何かに不安になったら、必ず教えて。二人でどうしたらいいか考えよ?」
名瀬がそばに居る...それだけで俺は強くなれる気がした。
君は泣いて強くなる
*****
こんな終わり方するつもりじゃなかったんだけど...なんか終わらせてしまいました。
うん...ちょっと不完全燃焼。
最近はネタばかり浮かんで、なかなか長編(できちゃった?!)の続きが書けずにいます。
終盤になってるので、キチンと終わらせたいんですけどね...。
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