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「鶴見ッ!!」
鶴見が身をひるがえしたのと、俺が拘束を振り切って駆けだしたのはほぼ同時だった。
バカなことを考えているあいつに教えてやりたい。
いま、お前が握っているナイフは果物用だってことを──。
相手に死の恐怖を与え、思いのままにする道具じゃない。オレンジやりんごを美味しく食べるために使うものだ。
あのバカはそんなことすら知らない。
ずっとひとりきりで、悲しいものばかり口にしてきたから、なにも知らない。
オレンジの皮がむけていくときのみずみずしい飛沫。あの香りを嗅がせてやりたい。鼻いっぱいに吸い込むと、頭のてっぺんがむずむずして、目が覚めていくような感覚を味わわせてやりたい。りんごだってそうだ。キレイに皮がむけたときの得も言われぬ興奮と達成感を感じたら、いやなことなんて吹っ飛ぶ。
そうだ。
俺はこれから、鶴見にそういうことを教えてやろう。
もっともっと生きるのが楽しくなるようなことを、たくさん──。
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