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①
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スマホのアラームは、6:00にセットしてある。
5分毎のスヌーズを何度か遣り過ごして、
6:30には床を離れる。
カーテンを開けると、冬の間は暗かった空が既に明るくなっている。季節が移っていくのを実感する。
トイレに行って顔を洗ってYシャツに袖を通して
ネクタイを締める。
いつも通りのルーティン。何も変わらない。
昨日と同じような今日が始まる。
朝メシ代わりの栄養ゼリーを、ちゅう、と吸い込む。テレビの画面が天気予報に切り替わる頃に、
鞄を持って家を出る。
家……1DKのこの部屋を、今は そう呼ぶ。
男1人きりの部屋。最低限の荷物しかなかった空間は、社会人生活を重ねるにつれて、それなりに雑多になっていく。
戸締まりと火の元を確認して、ドアに鍵を掛ける。
岩泉 一の日常は平凡だった。
仕事は、それなりに上手くいっている。
上司の期待には応えられてる、と思うし、後輩にも慕われている、と思っている。
外回りの銀行員として訪問する先は、企業だったり個人だったりするが、評判だって悪くない、と思う。
事務員さん(年配の)から缶コーヒーを貰ったり、
年金を受給している年頃の婦人(平たく言えば、おばあちゃん)から、うちの孫をお嫁さんに貰って、と言われたこともある。妙齢の女性か、と少し心が動いたものの、小学生、と言われて力が抜けた。
予約にしても早過ぎるだろ、と苦笑いが出たが、
そう思ってもらえることは有難い。
人と接するのが嫌いじゃなかったのだ、と新たな自己発見もあり、張り合いを感じる毎日だ。
生活にも困っていない。
そりゃ、誰だって、いつの時代だって、現状より多くの収入を求めるだろうけど、上を見てもキリはない。
借金することなく、支払うべきものは ちゃんと支払えて、いくばくかの貯金も出来ている。
順調だ。
人生、順風満帆だ。
もっと喜んで良い。
もっと、誇らしく前を向いて良い。
……その筈なのに。
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