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⑤
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春休みなので、子どもの姿が目につく。
小学校の低学年とおぼしき男の子達が、わー、と意味もなく声を上げて走って行く。
と、走り去ったあとに、何やらポツンと落ちている。
岩泉は立ち上がって、その『何か』を拾い上げる。
緑色の、………カエル?のマスコット、らしき『それ』。
「おい。何か落としたぞ」
岩泉が、男の子達に声を掛けると、立ち止まって自分のポケットやバッグを確認していた子の1人が、
「あ、」と声を上げる。
「ボクのだ」
たたたた、と岩泉に近づいて、
「ボクが落としました」
と告げる。
「ん。はい」
と、岩泉が手渡すと、
「ありがとう、おじさん!」
彼は、礼儀正しくペコリと頭を下げ、くるりと身を反転させて仲間の元に走り寄る。
スーツ着てネクタイ締めてりゃ、こいつらにとっちゃ『おじさん』だよなー、
と、岩泉は苦笑する。まだ二十代なんだけどな、と心の中で唇を尖らす。
「何、落としたんだよ?」
「イッペイちゃん!田舎のじーちゃんがくれた!」
「ふーん……?」
子ども達は口々に何か言いながら、尚も走って行く。
イッペイちゃん。……カエル……。
ああ、そう言えば、と岩泉は思い当たる。
サッカーのJ2リーグの、どこかのチームに、そんな名前のマスコットが居たな。
あれは、『彼女』の地元にサッカーの試合を観に行った時だ。
アウェイで来ていたチームのマスコット(正確には違うらしいが)がイッペイちゃんで、そのグッズを買い求めるサポーターが長い列を作っていた。
入行して すぐのこと。
社会人生活の不安や迷いを言い合える同期がいて。
飲みに行ったり、遊びに行ったり。
……そんな『仲間』の1人だった、『彼女』。
「アタシも欲しいなぁ、イッペイちゃん」
『彼女』の声が甦る。
「並べば良いじゃねーか」
「はじめクンも欲しい?」
「オレは、いらねぇ」
馴れ馴れしく、はじめクン、と呼ぶ『彼女』に違和感を覚え、愛想もなく そう言って岩泉は横を向いた。
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