アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
⑦
-
結局、その試合は両チームとも点を取れずに引き分けで終わった。
チャンスをモノに出来なくて、勝ち切れなかった不満を発散させたい『彼女』は、露骨に体を擦り寄せてきた。
駅までのシャトルバスの中では、
「今から帰るの、大変じゃん?駅前のホテルに泊まれば?飲みに付き合うからさぁ!」
と誘われた。
その日は土曜日で、泊まっても支障はなかったのだが。
「ごめん。明日、ダチと約束あっから……悪ぃけど
帰るわ」
その一点張りで逃れてきた。
そして、そのあとは。
互いに仕事が忙しくなったし、『彼女』のヘソが曲がったせいもあったのか、誘いの回数は見る間に減って。
……それでも、1回、一緒に観戦したっけか。
『彼女』は、薬指の指輪を隠す振りをして、その実 強調するように、手を口に当てクスクスと笑っていた。
逃したサカナは大きかったの、分かってる?
とでも言いたげに、黒目をキョロキョロさせて。
それっきり、連絡は取っていない。
『彼女』の名字が変わったとも聞いていない。
あのとき、と岩泉は缶コーヒーを呷って考える。
『彼女』と、そういう関係、になっていたとしたら。
今頃オレは寂しさを感じずに いたのだろうか。
結婚して、子どもが出来て、パパ、と呼ばれる立場になって。
家族の為に働く、という大義名分のもと、脇目も振らず仕事に のめり込む企業戦士となって出世を目指していたのだろうか。
でも多分。いや、きっと。
無理だったろう。
出来なかっただろう。
きっと菅原を思い出してしまう。
『彼女』を抱きながら菅原を求めてしまう。
喘ぐ姿に感じる声に、菅原を重ねて……
オレは、オレを呪っただろう。
なかったコトを追い掛けても仕方がない。
無くて良かったんだ、と割り切るしかない。
『彼女』のことは、言い方は悪いが、どうでもいい。
ああ、だけど。
今日は やけに菅原を思い出す。
温もりを求めてしまう。
せめて 会うだけ、……顔だけでも良いから見たくなってしまう、と岩泉は溜め息を吐く。
…………無理だろ。
オレは きっぱりフラレたし。
菅原は及川の元に戻ったし。
及川の自慢顔なんざ見たくねーし。
なあ。
いつになったら、オレは折り合いがつけられるんだろう?
この想いが消えるコト、って あるのか?
……いや、消えて欲しくない気持ちもあるから厄介なんだ。
だから辛い。
自分の半分が、いつまで経っても陰に隠れているようで。
孤独、という分身が そこに入り込んでしまいそうで。
オレの幸せ、って何なんだ?
岩泉の問いは、いつも答えが出ないままだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
7 / 11