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⑨
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「うん。もともとオレが『独身』の時に使ってたヤツだから古くなってたし。それにスガちゃんが 色々 汚したりするからさー。ね?」
ね、と言って及川は菅原の顔を見る。
「お前、今だって独身だべ?それに、オレばっかりが汚したみたいに言うな!」
菅原が呆れたように、そして少し顔を赤くして横を向く。
「スガちゃんの旦那さんじゃん!」
及川が唇を尖らす。岩泉の存在を充分に意識しての発言だが、当の岩泉は反応せず、他のことに気を取られている。
あのソファーを。
及川と菅原の部屋に置かれていた その家具を、岩泉は頭に思い浮かべる。
あの、ソファーを。
オレが菅原との関係を無理矢理 始めた、原点とも言うべき、あの家具を。
ソファーごと、オレが居た痕跡までもゴミとして捨て去る、というのか。
「へえ、……そっか。…………悪ぃ、オレ、これから支店に戻らなきゃいけねーんだ…………じゃ、」
顔の筋肉 全てに喝を入れて、岩泉は ようやく表情らしきものを作る。
笑うつもりは無い。しかし、泣きたくはない。
一番 嫌なのは、空虚な顔で居ることだ。
何とも思っていない振りをしたい。
何も堪えてない、と虚勢を張りたい。
上手くやれているだろうか、オレは。
『普通』にしているだろうか?
「そうなんだーー。残念だね。じゃ、ね。
またね!」
さっさと行け、と言うように、及川が手をヒラヒラと振る。
「おい!」
菅原が、たしなめるように及川の腕を揺する。
ああ。なんだ、この2人
並んでいると、絵になるんだな。
岩泉は美しい絵画を見た時のように、今更ながら2人に目を奪われる。
モデルのようなルックスと長身で、綺麗に筋肉が付いた及川と、一見 爽やかで優しげな表情を浮かべて
及川の肩口で笑う菅原と。
一幅の絵のようだ。
絶妙な距離感で寄り添い、他の誰かが入り込む余地など無い2人だ。……いや、余地はあるのだが。
入り込んだ誰かは、成す術を持たず退散してくるのだろう。
2人の間に漂う親密な信頼感。
言葉を超えたのか。
そうなるまで一体どれだけ2人の葛藤があったのか。
オレは立ち止まって、もがいていただけで。
こいつらは着実に前進してて。
2人だけの確固たる世界を作り上げたのか。
もう菅原は揺るがないだろう。
もう及川は慌てないだろう。
そう思える2人で。
いい一対だ。
……敵わねぇ。
………………………………………。
敵わねぇけども………。
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