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春 -1-
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「そっち、大丈夫ですか?」
「ああ、何とかな。────よしっ、これでいっちょ終わり!」
「すみません、僕の引っ越し手伝ってもらっちゃって。助かりました」
毎年恒例の桜吹雪もようやく終わりを迎えようとしていた。都内某所で新生活にむけて準備をしていた二人の青年は先刻片付いた荷物を見渡してほっとため息を吐いた。
この部屋の主である、人の良さそうな眼鏡の似合う青年、安原は某一流大学への進学を期に独り暮らしを決めた。しかしなかなか一人では片付けが進まず急遽もう一人の金髪の青年、滝川を呼んで手伝いを要請したというところだ。
本来なら呼ばれるのは誰でも良かったはずだった。大学の友人でも良し、高校時代の友人でも良し、頼めるものならバイト先の上司でも構わないところだ。
しかし、安原にはどうしても滝川でなければならない理由があった。
「しっかしまぁ、マジで曰く付きの物件に手を出すとはな」
「知り合いに拝み屋がいるならそれを使わない手はないでしょう。おかげで家賃も大分抑えられました」
『知り合いの拝み屋』というのは、もちろん滝川のことだ。彼はもと高野山の坊主で、今はその経験を生かし拝み屋の副業をしている。
坊主で拝み屋が副業、というのもおかしな話だが、彼の本業がベーシストだというからもっと摩訶不思議である。
そんなこんなで安原は家賃をギリギリまで抑えるためだけに曰く付きの物件を借り、滝川にお祓いをさせてついでに荷物の整理も手伝わせた、ということだった。
「いつも思ってたけど、やっぱお前ほんと人の扱い上手いよな」
呆れ顔の滝川にひとこと、
「いやぁ、滝川さんが乗せられやすいだけじゃないですかね?」
安原はにこにこ笑顔でそう答えた。
彼の渾名は『越後屋』である。
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